あの日、その人は泣き叫んだ。
二人だけの部屋で体を重ね愛を交わしているさなかに。
激しく泣き叫び続けた。
男は”観”た。
彼女が自覚せず長年にわたり重ねた傷と悲しみを。
男と女は愛を交わし至福のさなかに女は泣き叫んだ。
悲しみを知らぬかのような天真爛漫な女が目に涙を浮かべぽろぽろと溢れさせありったけの力で叫び続けた。
まるで狂ってしまったかのように。
封印し自覚さえしなかった悲しみは再度意識しとことん感じて放出しないことには魂は救われない。
愛を重ねているさなかに泣き叫びいつまで続くとも知れない慟哭を男はただ包み込んだ。
泣き叫ぶ女をただ静かに抱いた。
女は理性のかけらもないほどに泣き叫んだ。
体の底から叫び声があふれ出した。
男は知っていた。
止めてはいけないのだと。
叫びつくし泣きつくすまで女が自分の精神を解き放たねば明日に向かって生きられないことを。
浄化のプロセスだ。
女は身も心もすべて男にさらけ出した。
明け渡しだ。
男は受け止めた。
そしてしかし縛りもしない。
ただひたすら愛することが必要なことと知っていた。
解放のプロセスだから。
その二人はきっと明日に向かって生きてゆくだろう。
味わうべき感情は封印しても味わいつくさねば魂は解き放たれない。
それが無意識のうちに封印してしまった怒りや悲しみであれば精神のどこかに解放のときを待って在りつづける。
悲しみを封印して笑顔だけを保つことは出来ない。
だが、
自分だけではそれは出来ない。
誰かに心から愛されなければ叶わない。
もちろん男と女の愛である必要はない。
ただひたすらに愛されエネルギーと繋がれば堰を切って涙が溢れ出す。
いかに言葉を並べても
いかに優れた哲学を語っても
そこにエネルギーの自然な交流がなければ人は繋がらない。
つながりようのないエネルギーを持つものが重ねあおうとすればたちまちのうちに不協和音が鳴り響く。
体も精神も全てわかっている。
本当に人を愛せるもの
愛されるものはどれほどいようか?
あなたは誰かを愛しているか?
愛を知らぬものは愛されねばならない。
愛し方を学び人を愛さねば愛を得られない。
だが、愛を知らぬものは愛されにくい。
愛を語るものは現われてもそこにあるのはただの欲であるばかり。
だがそれでも愛することなしに愛されようと求めても得るものはない。
自分からただただ誰かを愛そうと心を働かせ出したとき
愛しきものを引き寄せる力が備わり始める。
そこにあるのは現世への執着ではなく解放だ。
求め重ねれば重ねるほど解放してゆくパラドックス。
その二人はどこへ行くのだろう?
執着のない二人らしい。
流れに任せてゆくのだろう。
愛される意味を
愛する意味を
知ることは素敵なこと。
愛するものの悲しみを癒し立ち上がるために愛を注ぐことができれば愛欲におぼれようとも地獄には落ちない。
もとよりその向こうにあるのは聖なる行為だから。
ある二人の過去の話。
二人のその後は誰も知らない。
二人にしかわからない。
ましてや、未来は二人にもわかっていないのだろう。
愛の波に乗って漂っていくのだろう。
PEACE ON EARTH, HAPPINESS TO YOU.
〜あるおとことおんなの物語〜