主人公の僕が中学校1年生の頃、ぼくらにとってはじめての文化祭が行われる事になり、僕はクラスから男女2名ずつの文化祭実行委員会をやらされることになりました。
そのメンバーは僕と、今回のキーパーソンである僕の悪友S君と女の子のIさん、あとどうでもいい女でした。
文化祭まであと2日のある日の放課後。
入場門みたい奴をティッシュの花で飾り付ける作業を4クラスから4人ずつの16人がかりでやっていました。
午後7時。
すっかり遅くなっていたのですが、学校に遅くまで残っている感じと、女子の面子が僕がひそかに好きだったIさんを含むきれいどころが多かったせいで、割と嫌ではありませんでした。
しかし、作業もほぼ終わりかけた頃突然、担任で実行委員の担当の厳しい女教師O先生がやってきて
「えー、もう遅いので女子は先生が送っていきます。あと男子はすみやかに下校するように」
と言いました。
「それからT(僕)とSは家も近いので最後の片づけをしてください」
と言い出したO先生。
恐らく自分のクラスの直接の生徒であるぼくら2人がチョイスされたと思うんですが、プチ合コンから一気に夜の学校に男2人というさみしい状況に追い込まれたぼくらは2人で悪態をつき始めました。
「なんだよ女ばっかり」
「かわいいからっていい気になるなよ、特にI」
次第にそれは変なテンションになっていきました。
「俺はIが好きだ!」
「俺もさ!」
「でもいい気になってるよな!」
「委員会でもはりきりすぎだ!」
「でも好きだ!」
「それはもちろんだ!」
という、バッシングなんだか求愛なんだかわからない、かわいさあまって憎さ100倍状態になっていきました。
そんな最中突然、悪友のSがIさんの机に近寄り、机の角にズボンの上から股間をギュウギュウ押しつけハイテンションで
「こうじゃ!!」
と言いました。
「こうじゃ」は当時ぼくらの間で大流行していたがきデカのこまわり君がマンガの中でけつを出したり股間を出したりする時のかけ声で、僕は死ぬほど笑い転げました。
その笑いに気をよくしたSは、続いてズボンをおろし白ブリーフをイスにグリグリあて
「こうじゃ!」
と言いました。
もう夜の学校と禁断のギャグと笑いすぎによる酸欠とSのエンターティナーぶりがあいまってわけのわからなくなっていました。
僕は死ぬほど笑いころげていましたが、ここで負けては男がすたると、パンツになりつい先ほどIさんが作りあげた1番複雑で1番大きい紙で出来たでかい花を入場門からむしりとって股間にかかげ
「こうじゃ!!」
と言ってやりました。
一応言っておきますと、この時僕はまだ少しだけ冷静で、直径30センチぐらいの花を取る時も後で貼れば済むようにきちんとはがしていたし股間の前にかかげるだけでデリケートに扱っていたのでした。
が、
S君はもはやそんなテンションではありませんでした。
僕の上にかぶせるためにパンツをおろし、生けつで花をギュッとはさみ
「こーじゃーっ!!」
と雄たけんだのです。
笑いました。
後にも先にもあれ以上笑ったことはありません。
僕はこのままおかしくなってしまうのではないか、一生このテンションのままではないかと思うほどでした。
が、しかし、テンションは一気に下がりました。
「討ち取ったり!」
とばかりに、今度は高くかかげられた花に『うんこ』がついていたのです。それも結構な濃さで。
花、もとい、既に単なるうんこのついた大きなちり紙を見て、二人のテンションは一気に落ちました。
無言でそそくさとズボンをはいたぼくらはしばらく黙ってから、
「・・・、どうしよう」
と言いました。
花を作り直そうにもその花は複雑に作られていたし、大きな紙はもうありませんでした。
結局、形を整えて元の場所に貼り、2人で
「うん、わかんないね」
「うんわかんない」
「あ、ほら僕たちはこの事を意識してるからわかっちゃうけど知らない人にはわかんないね」
「わかんない」
と、なぐさめあって帰宅しました。
翌日、すなわち文化祭の前日、学校に行くと既に入口に入場門が備え付けられていました。
奇跡です。
奇跡的にわからなかったのです、設置作業をした先生方には。
登校がピークに達した頃、群衆の中の誰かが言いました。
「おい、あの花、うんこついてるみてえだな」
群衆の中にはIさんがいました。
僕は絶望的な気持ちになりましたが、Sが堂々と言ってのけました。
「あの高さにうんこをつけるなんて人間技じゃないね、おおかたバカが泥でも投げたんじゃないの」
いい感じのトーンにみんなが納得しました。
さらにSはかえす刀でIさんに
「昨日Iが一生懸命作ったのにな、ひどい事するよな。あ、作り直すんだったら俺とTで放課後手伝ってもいいぜ」
と言いました。
その後いろいろあってSは人気者になっていき、中2の時にはそのIさんとつきあったりもしていました。
僕はこの件を境に、調子に乗る事の怖さ、けつを出していい器とは?、の2つについて考えるようになり、割と静かな中学生活を送りました。
今でも会社の宴会などでみんなのテンションが上がっている時に、ひとり静かになり誰かがけつでも出そうものならトイレに逃げ込んだりしています。
はたして、あのときの僕の行動は、正しかったのでしょうか。