日本が初戦、
悔しい逆転負けを喫した相手であるロシア。最終順位こそ、日本の一つ上、すなわちイギリスと5-6位を分け合う結果となったのだが、最終日、驚くべき快挙を成し遂げていた。すなわちスウェーデン、ノルウェーから白星を挙げていたのだ。
ロシア協会HPには、今回の五輪出場権獲得へむけた世界選手権でのポイント獲得ランキングで、同国が9点で7位、日本が8.5点で8位だったとある。両者の実力差はわずかだ。後半戦で見せた日本の快進撃の陰に隠れている感があるが、デンマークと並ぶ当面のライバル国のことだけに今回五輪でのロシアの躍進ぶりは見過ごせない。
これに関して、ロシア・スキップのリュドミラ・プリヴィフコヴァへの
イタル・タス通信によるインタビュー記事が同通信のサイトに掲載されているのを発見。短いながら日本についての言及も見られる非常に興味深い内容のものである。
まず、ノルウェー戦で迷いのない投擲が見受けられたが、予選リーグの最後になって自信がついてきたのではないかとの問いに対し、プリヴィフコヴァは次のように答えている。
「すっきりした感じがありました。それまでは、オリンピックということで神経質になっていたところも少しありました。自分にとっては一番の大舞台ですから。でも、残り2試合になって、1試合でも落としたら準決勝には進めないと分かった時点で、強い気持ちが湧いてきました。やるかやられるか、やるべきことができるかできないかだという気持ちです。
私は心を落ち着かせ、不安にならずに、思いっきりプレーしようとしました。オリガ・アンドリアノヴァ監督の指示も、まさに同じような内容でした。それに対して私たちは、言葉で何かを答えることはせず、自分たちには力があり、最も強いライバル国にも勝つことが出来るということを自らに示してみせたのです。準決勝に進めなかったこと、そして、本当なら勝てたはずなのにひとつ星を落としていることを考えると悔しさはあります。
でも、もしある試合に勝ってたとしても、次の試合になったら、調子を落としていたかもしれませんし。残念さはありますが、もう次のオリンピックへ向けた準備に取りかかるつもりです」。
日本は後半戦、星勘定が非常に厳しくなっていた。それまで小野寺も決して良い出来ではなかった。カナダ戦を前に、スキップ交代の話もでたと朝日新聞の夕刊が伝えていたように記憶している。だが、チームは小野寺に信頼を寄せ、攻め重視の大胆なプレーを繰り出すことに決める。その結果、この北米の巨人を倒し、スウェーデンに肉薄するという快進撃につながったわけだ。
ロシア・スキップのインタビューを読むと、ぎりぎりの瀬戸際になって心の底に沸いてきた「信じる気持ち」が、強敵を倒す原動力になったという点が共通しているのが見て取れる。土壇場になってこのような心境に立てたということから何を読み取るべきか。月並みだけれども、両チームが日頃の練習へいかに多くの情熱を注いでいたかということだと思う。「あれだけやってきたのだから大丈夫」ということなのだろう。
次に、カナダ対デンマーク戦、最終エンドに入った時点で8-8で同点だったことをどうとらえていたかとの質問に対し、こう答えている。
「デンマークにすごく望みをかけていました。デンマークが勝った場合、私たちにもタイブレークのチャンスがでてくるからです。デンマークはこのエンドを取る可能性がありました。というのもストーンがむきだしの状態だったからです。同時に私は、この対戦の得点版も見ていました。
そんなことしている場合じゃなかったんですが。自分たちの試合へ目を向けて、レーンの状況に集中しなきゃならなかったわけですし。でも、我慢が出来なかったんです。あの試合の結果次第で、私たちのその後の状況が変わってくるんですから」。
予選は、4試合隣り合わせで実施しているため、テレビを見ながら筆者も、「きっと隣りのチームのことも気になっているんだろうな」と思っていたのだが、まさにその通りだった。興味があるのは、自分たちの準決勝進出に深く関係する試合の進行具合を、どの程度、自らの戦い方に取り入れていくかという点。
サッカーの大きな大会のグループリーグ3戦目では過去、他会場の結果に応じて戦い方を変えることもあったように思うが、カーリングの場合はどうなんだろうか。また、もし、変えるとしたら、どのような変更のし方があるのだろうか。今回の五輪中継では、日本戦以外の途中経過を伝えることがなかったため、こういう点まで思いをめぐらすことはなかったが、次回は、同時進行の試合はライバル国の戦いぶりも分かるようにすれば面白いかもしれない。
一番大変だったのはどのチームかとの問いには、次のように答えている。
「世界チャンピオン、スウェーデンとの試合です。ここは非常に経験のあるチームで、技術だけじゃなくて戦術も上手く使ってきます。スウェーデン戦で私たちは、すごく慎重にプレーしました。精神的に大きなプレッシャーを感じていたんですが、相手の出方を常に2手前から考えていました。とはいえ、どれひとつとして簡単な試合はありませんでした。弱いチームなんて出場してなかったからです。
どのチームでも、予想もつかないときに、力を見せつける可能性がありました。例えば、大会前、外国のある記者が、日本とロシアはお客様と話していたそうです。これには私たちも、すこし頭に来ました。でも、日本は強いチームに勝ち、4勝を挙げることが出来ましたし、私たちは5勝です。つまり、オリンピックには、弱いチームなんていないということなんです」。
日本を見下していた記者がいたとは聞き捨てならないが、もし日本が前半戦の不調を引きずったまま予選を終わっていたとしたならば、そのような評価も妥当なものとなっていたのかもしれない。だが、現実は違った。最後の4試合では、日本代表の持つ底力を、各国の関係者へ十二分に見せつけることが出来たはずだ。
そのことはまた、次に国際試合を行う際、相手国に対するプレッシャーとしてじんわりと効いてくるものなのだと思う。ちょうど、2005年、フェデレーションカップで
ブラジルに引き分けたサッカー日本代表を、一昔前、アジアでも負けつづけていた頃のように、はなから舐めてかかる国はもはやないはずであるように。
最後に、このロシア・スキップは、今回の五輪で、とくに戦術面で新たな収穫があったほか、強国との対戦を体験したことで、ロシアチームの経験値が大きく上昇したとしつつ、バンクーバーを目指して競技力を高め経験をつんでいきたいと語り、インタビューは終わっている。
日本チームにも間違いなく、技術面、戦術面で様々な収穫があっただろうと想像される。だが、素人考えで恐縮なのだが、最も重要なのは、五輪という大舞台をこなした経験だろう。なかでも、小野寺、林の体験した、前回ソルトレークでの不完全燃焼の悔しさ、そして今回のトリノで世界の頂点に指先が触れた感触。これこそ、何ものにも替えがたい財産となるはずだ。そしてそれを生かすか殺すかで、今後の日本カーリングの命運が大きく左右されもするのである。