
長野名物、おやき。
野沢菜、あずき、かぼちゃ、しめじ、なす、くるみの六種類。
識別のために本当に「ヤキ」入れられている。
学生時代からの友人Hが送ってきてくれた。
彼女は東京在住なのだけれど、先週お父さんが長野で倒れて、今も諏訪の病院に入院している。
診断は脳出血。命に別状はないけれど、左半身麻痺が残るそうだ。
もう少しその病院で治療を受けて、病状が落ち着いたら東京の病院に転院して、リハビリすることになるだろうとのこと。
だから彼女はしばらくの間、東京と長野を行き来する生活になる。
Hは昔から今に至るまで、仲間随一ドライな奴だ。
私らが二十歳の頃、当時流行っていた浜田省吾の『もうひとつの土曜日』を聞いて、彼女は「便利だよね、こういう男いると」と言い放った。
つい最近では、「あんたは優しくない」といわれて、彼にフラれてた。
でも彼女は、冷たいわけじゃない。乾いてるのだ。とにかく、しっけない。
それはこんな時には、ひどく頼もしい。
初めてお父さんの様子を見に行った後のメールでは、カラリと「いやあ〜大変かな。見事に立派な脳出血」と書いてきて、私はつい、くっと笑ってしまった。こんなお知らせを笑わせながら読ませる奴、私のまわりにはほかにいない。
お母さんがショックうけて食事がろくにとれないらしいんだけど、Hがいっしょだと彼女が平然とばくばく食べるから、つられて食べてくれる、らしい。
彼女は理学療法士なので、脳卒中とその後遺症についての知識も十分あって、これからやるべきことを知り尽くしているから、必要以上に不安になったりすることがないというのもあるだろう。
おやき到着の直後に、Hの職場のクリニックからメールが届いた。
昨日の夜、長野から帰ってきて、今日は朝から仕事に出ているそうだ。
「今週末も来週末も長野にいるから、よかったらおいでよ。病院にいる時間以外はヒマだからさ。9/2は諏訪の新作花火発表会だよ」だと。
おまえさー、リゾート気分かよ。
ふと頭に浮かんだのは、私の大好きなミスチルの歌詞。
どんな不幸からも 喜びを拾い上げ 笑って過ごす才能を誰もが持ってる
そうだ。そうだな。
私もメールを返す。
「じゃ、いっちゃおっかなあー。わたしも仕事ぜんぜん決まんないしさー」
笑って過ごす才能を、今こそ発揮するのだ。

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