映画「悪人」(2010、李相日監督、妻夫木聡・深津絵里主演、吉田修一原作)を見る。
この映画で深津絵里が第34回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞。
見事な演技だ。
映画はブラックアウトから妻夫木の白いスポーツカーの給油口にカットイン・カットアウトし、スタンドの店員が給油口という穴に給油栓を差しこむ画からはじまる。
セックスと暴力を予感させる静かなはじまりだ。
出会い系サイトで知りあった満島ひかるを殺してしまった妻夫木は、また出会い系サイトで深津に行き逢う。
孤独な心のふたりはセックスの後、傷を相手に見せるように話し出す。
「ここに来る途中、安売りの靴屋があったやろ、あすこを右に曲がって、真っ直ぐ田圃のなかを進んだところがあたしの高校やったんよ。そのちょっと手前に小学校と中学校、今の職場もあの国道沿い。なんか考えてみたら、あたしってあの国道から全然離れんやったとね。あの国道をいったりきたりしよっただけで」
「俺も似たようなもん」
どこにでもいるふたりだった。
妻夫木が海辺の家に住んでいる、と言うと、深津が羨ましがる。
遠くを見る眼で妻夫木が呟く。
「目の前に海があったら、その先どこへも行けないような気になるよ」
別れぎわ、深津は妻夫木にもらったお金を返して言う。
「本気で誰かと出逢いたくて本気で[メールを]やった」
俺も本気だった、と答えて別れるが、妻夫木の実家から警察が来た、と携帯に電話があり、動揺した妻夫木は深津のもとへ戻る。
何があったの? と訊く深津を妻夫木は抱きしめ、「もっと、早く出逢いたかった」と言って自分が殺人犯であることを打ち明ける。
自首しようとする妻夫木は深津に、お前は見られないほうがいいだろう、と言うが深津は、ずっと待っているからと言って車から降りない。
車を降り、警察署へ向かう妻夫木、信号は赤、クラクションが鳴る、またクラクションが鳴る、深津がクラクションを鳴らして呼び止めている。
鳴り響くクラクションに妻夫木は引き返して深津とひっしと抱き合い、禁じられた愛に逃避行する。
満島ひかるの父、柄本明が娘が殺される遠因を生んだ大学生の仲間に言う。
「あんた大切な人はおるね。その人の幸せな様子を思うただけで、自分まで嬉しくなってくるような人が――今の世の中、大切な人のおらん人が多すぎる。自分には失うもんがないち思いこんで、そんで強くなった気になっとう。だけんよ、自分が余裕のある人間ち思いくさって失ったり、欲しがったりする人を馬鹿にした眼で見下しとう。そうじゃないとよ。そうじゃ人間は駄目とよ」
妻夫木と深津は、柄本の意に反して、そうじゃなかった、大切な人をもった。
殺したいほど、愛した……ふたり……。
それを「悪人」と人は呼ぶ。

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