
「安楽寺」(埼玉県川口市)
「本山にあのアナウンサーが来てくださったときのことです」
住職さんの話が始まった。
私は眉にツバをつけた。
いつものほら話だろうが、引き込まれて一応尋ねた。
「住職、誰が来たの?」
「真言の生まれ変わりです」
「真言の・・・生まれ変わり? なんじゃそれは」
「J-WAVEで有名で、サッカー気違いの気持ちのいい人です」
「えーと、ジョン・カビラ」
「そうです。元日本マクドナルドマーケティング本部長の川平謙慈さんです」
「住職は 見てきたよう なうそを言う」
「いえいえ、住職は WIKIで説教 たれてます」
「あははは」
「で、カビラがどうしたって」
「いきなり、憤られたのです」
「え、あの人が。さぞや大声で言ったんだろうね」
「いえ、そうでもありませんでした。でも、表情は真剣そのものでした」
「なんでまた、そんなことに」
「私には理由はよくわかりません。カビラさんはご存知のように大のサッカー好きで、この日も、サッカー関連の仕事で川口にいらしたときに本山にお寄りになったのです。が、それはともかく、私が真言を繰り返し唱えていたときです、憤慨なさったのは」
「カビラさんは住職が真言を唱えていたことをわかっていたの」
「いえ、私はそっぽを向いて唱えていました」
「わかったよ、住職。また、木久扇みたいな駄洒落だろう」
「五名刹。いや、ご明察。私の言葉が『ジョンカビラ つっけんで サラダをドバッと』・・・」
「いや、聞こえたんじゃなくて、住職が実際にそう言ったとにらんだね、今回は」
「とんでもない、と心は自然にうそをつきたがりますが、その通りです。なんとしてもJ-WAVEでこの寺の名前を紹介して貰いたかったので」
「住職、そんなことしないで、直接ずばっと紹介してくれって頼めばよかったじゃないの」
「そうでした。あの聡明なカビラさんですから、そうすれば紹介もしてくれたでしょう。エピソードとしては非常に面白いけど、でもオンエアはできないと言われました」
「そりゃ、残念だったね」
「真に至極。そして、カビラさんの駄洒落の方が一枚上でした。『残念でした、でもアンラック寺だから放送されないでも仕方ないでしょう』ですって」
この住職さん、自分に正直になると必ず「どつぼ」にはまる性格のようです。名は体を表している寺の住職でした。

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