
「蓮福寺」(埼玉県松伏町)
「水準点とは何か、ご存知か」と和尚は言った。
「海の潮位や河川の水位を知るための基準でしょう」と私は言った。
「甘い!」と喝を入れて、和尚の薀蓄が始まった。
「水準点とは英語で言えばbenchmarkだ。
水とはなんら関係がない。
国土地理院が基本測量として設けた「〜等水準点」と、地方公共団体が公共測量として設けた「〜級水準点」の2種類がある。
格式が高いのは国土地理院のものだ。
そして、水準点には基準となる柱石や金属が設置されておる。
国土地理院は主要国道などのそばに2km間隔で設置しておる。
このように土地土地に静かに基準があるから生活が成り立っておるのじゃ。
寺院の役割もこれに同じで目立たないが欠かせないものなのだ」
和尚は決して地味な存在ではなく、プレゼンス過剰だと思ったが私は静かにしていた。
そして尋ねてみた。
「へえ、今時金属でなく石ですか」
「そうじゃ。柱石には小豆島産の花崗岩を使用ことが多いのじゃ。
石の上には半球状の突起があり、その上に標尺を乗せて測量を行うらしい」
「して、和尚はどうしてそんな水準点にこだわるのですか?」
「なあに、実は寺の墓石を水準点にしたいのじゃ。
死んだ人も本望というものだろう。
死してなお、世の役にたっているのだ。
素晴らしいアイデアだと思うのだが」
こう言った後、和尚は笑い声を残して堂に入っていった。

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