東南アジアの港市の歴史を見ると、実はその繁栄はかなり転々としている。
つまり、中継貿易というのは、2者以上の他者がいて初めて成立する訳で、租税率などの交易条件次第で簡単に交易ルートから外されてしまう。
ネーデルラントでもアントワープやブリュジュなど幾つかの港市の興亡があったが、どれも、ある程度繁栄するとギルドなどの既得権益護持組織が生まれ、これが必然的に高コスト体質を招き、気付いた時には、他の港に繁栄を奪われる、というパターンが繰り返されている。
20世紀後半には、ロンドン港がコンテナ化を渋った為に、あっという間に名も無い外港に地位を奪われてしまったこともある。(そもそも、ロンドン港では船舶の大型化に対応できなかったが)
例えば、マラッカは15世紀頃まで中継交易で繁栄したが、この富を独占してやろうとポルトガルが軍事占領した。
で、税率をガバッと上げたら、インドのマラバール海岸やグジャラート商人も、華僑も皆スマトラ島のアチェに逃げてしまった。
ポルトガルがマラッカ海峡を封じきる事もできず、時には商人たちがスマトラ島の南側を通過する海路を使ったりするようになるともう、どうしようもなかった。
結局ポルトガルはマラッカ経営から利益を引き出すことが出来なかった。
つまり、中継交易の都市というのは、
税率を上げれば見捨てられ
繁栄して、外国勢から狙われると、防衛のために軍事費を確保すべく増税しなければならない
ということになってしまう。
琉球なんていうのは、明の海禁策によって中継交易の利益を引き出すことに成功したが、国防はいい加減だったのか、あっさりと薩摩の精鋭に占領されてしまう。
後の時代、中継貿易で栄えたジョホールはタイのアユタヤ朝に目を付けられ危うく征服されそうになった。
こまったジョホールは中国に臣下の礼をとり、
「言う事聞きます。貢物もします。守って下さい」
と言った。
中国は対に圧力をかけて講和を取り持ったりした。
マラッカやジョホール以外にも、パサイ、パレンバン等が時代ごとに中心都市の役割を回り持ちしている。
中継貿易の拠点都市、という地位は実はかなり流動的なのだ。
多分、シンガポールはそのことを良く分かっているのではないか、だからこそ、港湾や空港、バイオ特区など、物流や知識、情報に金融すらも中継しようとやっきになっているのではないだろうか。
ま、今日では、繁栄しても他国から軍事占領される、という事態は極めて考えにくいが、オフショアは税金の割引合戦で生き残るしかない。
しかし、あまり割り引きすぎても都市運営が出来ない。
「顧客」に対して、魅力的な環境やインフラを提供するのもまた、オフショア・ニアショア国家の重要な役目である。
ただ、オフショア、ニアショアの存在価値というのは、相対的に近隣諸国に比べて、
1、税金が安く
2、市場が開放されていて
3、規制が緩く、
4、公平性が確保されており
5、個人情報が秘匿されている
6、快適な環境、インフラが整備されている
ことにある。
だから、やはり、安易に税金を上げる事はできない。
(上記条件の1〜5までは、領域国家にとってはかなり苦手な条件だと思われます。様々な既得権益層や政治勢力に左右されざるを得ない領域国家には到底実現不可能とすら言える)
オフショアとしてのドバイを考えた時、今は飛ぶ鳥を落す勢いだが、一歩間違えば簡単に凋落しうるのではないかと思う。
オフショア、ニアショアの候補地など世界中に幾らでもある。
もともと何もない土地なのだから、お客様が着てくれる間は繁栄しても、一旦見捨てられたら凋落も早いかもしれない。
しかし、その一方で、そもそも、スイスなんていうのは、北イタリアとネーデルラントを結ぶ中継交易都市の連合体である。
あの国は16世紀に領土拡張を事実上断念して以来、既に数百年にわたって欧州のオフショアとして銀行業で食ってきた。
(そして、琉球などと対照的に、国防には人一倍力を入れ、その国土を維持するのみならず、傭兵業までやって稼いでいた)
そして、今も世界有数の富裕国である。
20世紀が全面戦争と、国民国家の時代だとしたら、21世紀はグローバリゼーションとオフショア国家の時代なのかもしれない。
一人当たりのGDPでも、ルクセンブルグやスイスは常に常連だし、今後はシンガポールや香港、モーリシャス、キプロス、それにUAEのドバイ首長国等の繁栄は当分続くかもしれない。
かつて、日本でも、博多や堺は室町後期から戦国時代にかけて繁栄した。
その時代は領域国家の統治能力が落ちたため、都市国家の自治が可能になった時代だった。
その後天下が統一され、領域国家の統治能力が回復すると、都市国家の自治は取り消された。
同様のことは世界中で散見されるが、国家主権が何よりも尊重される今日では、都市国家の自治権は不滅である。
都市国家にとって、悪い時代ではないことだけは確かだと思う。

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