トレンディードラマをみていて、「こんなドロドロした恋愛とか 人間関係ってホントにあんのかなあ?」なんてことは、誰もが一度 は思うことがあるだろう。けれど、多かれ少なかれ“ドロドロ”と いう感じはみんな一度は経験しているはずだ。それがドラマティッ クであればあるほど、周囲の人から同情や共感を得やすくもなる。
だからこそ、トレンディードラマはトレンディードラマとして成立するのだろう。
やや抽象的な前書きだが、今回は、まあ、そんな話だ。
「そういえば、オマエとこんなふうに二人で飲みに行くのって、珍しくないか?」「・・・確か、初のはずだな・・・」4月の終わり、春にしてはまだ少し肌寒い夜、僕と彼は二人で居酒屋へと向かっていた。それは、まだ寮の中が新入生歓迎時期で騒がしい頃だった。
僕は大学を卒業しそこねて、5年目の春を迎えていた。一昔前は寮には留年生が沢山いたものだが、その年には5年生は僕一人だけだった。幸いにも後輩には好かれていた方で、留年ということに対しての負い目はあまり感じることはなかったが(親に対しては別だが)ちゃんと単位を取らなければ、という危機感を大いに持って迎えた春でもあった。
「けっこう星が見えるな」寮から駅前までは、田舎道がだらだらと続く。だから街灯以外の明かりはほとんどなく、そのため夜には星が意外と多く見える。冬には“冬の大三角形”も鮮やかに光り輝いている。歩きながら空を見上げ、ふと呟いた。
「ああ・・・」彼の返事が少し小さかったのが少し気になったが、そのまま流した。いつもなら、休む間もなく喋っている感じの彼なのだが、今日は言葉数がやけに少なかった。初の二人での飲みに、多少なり緊張感があるのだろうか。けれどそもそも今回の飲みの言い出しっぺは彼の方なのだ。
少し引っかかる部分を感じながら、僕は踏切があがるのを待っていた。
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彼は、僕にとっておそらく親友と呼べる相手だ。辛いことも楽しいことも、何でも語り合え、そして分かち合えた。夜通し語り合うこともあったし、後輩を連れだして駅前のカラオケまで繰り出したりもした。愚痴混じりに彼女との事をぼやくのを一晩中聞かされた夜も何度もあれば、片思いの相手についての答えのない悩みを一晩中、彼に聞かせた夜もあった。二十歳を少し過ぎた年の、青春(死語か?)の熱さの残り火のような熱い友情を、僕も、そして多分彼も、お互いに感じていたと思う。
僕と彼とは、そんな関係だ。
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踏切をわたり、駅と反対方向へ少し歩くと居酒屋がある。そこは学生には手頃な値段で、しかもそこそこ美味い焼き鳥を出してくれる店で有名なところだ。僕と彼はその店に入り、入り口近くのテーブル席に腰かけ、生ビールを二つ、とりあえず頼んだ。
「んじゃ、まあとりあえず乾杯ということで」カチリ、とジョッキを軽く合わせてから、一気に半分ほど喉に流し込む。胃に心地良い刺激を感じながら、僕はマルボロに火を点けた。「で、何だよ?」「え?」ここ何日か、彼の様子が少しおかしかったことと、ここへ来るまでの間の彼の口数の少なさ、そしてこんな風に僕を飲みに誘ったことなどを総合して考え、これは何かあるなと察し、僕の方からカマをかけてみたのだ。「言えよ。ナンか話あるんだろ?」
「ああ。まあな・・・」突然の僕からの先制攻撃に、彼は多少面食らったような顔をしていた。「落ち着いて聞けよ・・・」言いながら、彼は自分自身を落ち着かせるようにセブンスターをくわえた。僕は掌にいやな汗を感じながら、彼の言葉の続きを待った。
「実は俺、今、付き合ってるヤツいてさ・・・」驚くほど真面目な顔つきから出てきた話がそんな中身だったので、僕はちょっと拍子抜けした。「前カノと別れてからだいぶたつもんな。よかったじゃんよ。俺はまたてっきり・・・」「その、相手なんだけどさ・・・」掌の汗が、妙にざわついた。「誰だよ・・・?」火を点けないままくわえていたセブンスターを灰皿に押しつけながら、彼は明らかに言葉を詰まらせていた。「他のヤツラはみんな、、知ってるんだ。オマエにだけは、なんか、言いづらくてな。で、今まで黙ってたんだが・・・」新しいセブンスターに火を点けながら、彼は続ける。「やっぱ、オマエにだけ黙ってるままってワケにもいかないしさ。で、二人で話して、俺から伝えるって事になったんだ」僕は2本目のマルボロに火を点けた。「俺はオマエのことを大事な友達だと思ってるし、だからこんなに悩んだんだし、でもだからこそちゃんと言わなきゃって思ったんだ。オマエとは、卒業した後もずっと付き合っていきたいしな・・・」話は核心へ近づいている。おそらく、僕の聞きたくない核心へ・・・
「で・・・?」手の汗を振り払いながら、ジョッキの残りを空けて、僕は続きを促した。「で、誰よ・・・?」
「○○だよ」予期した通り、一番聞きたくない名前が、彼の口からこぼれた。
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多分僕は、初めて会った時からずっと、どこか彼女に魅かれるものを感じていたと思う。はっきりとそれに気づくまでに随分時間がかかってしまい、気づいた時にはもうすでに、自分でも手がつけられないような激しい感情になっていた。自分の感情を持て余すことほど厄介な事はない。時としてそれは、彼女に向かってぶつけられた事もあった。それが決してしてはいけない事だと理性でわかっていても、どうしても止められなかった。結果、彼女を傷つけ、僕自身も自己嫌悪に苛まされた。けれど、僕と彼女はけっこういい関係だったと思う。あくまでも友達としてだが、カラオケに行くとすごく楽しかったし、炬燵に二人でのんびりとテレビを見て過ごす時間も好きだった。いわゆる“友達以上恋人未満”という、実にベタな関係だ。
事あるごとに、僕は彼にこの思いについて話した。ちょっとしたことで一喜一憂し、その度に彼に話した。大体において彼はよく話を聞いてくれたし、時によく励ましてくれた。頭の中で袋小路に行き詰まってしまった僕の思考を、じっくり一つ一つ解きほぐしてくれた事もあった。どういう訳か、彼の前でだけは、僕はいつも素直に正直になれた。彼にだけは、弱いところも情けないところも自然に出せた。
そんな彼が、彼女と付き合ってる・・・?
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一瞬、僕の頭の中は、完璧に真っ白になった。
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・・・続く・・・

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