20年ほど前の映画「愛は静けさの中に」(原題−小さな神の子供たち)は、耳の聞こえない女性と聾唖学校の教師の愛を描いた作品だった。二人の間を隔ている世界は、音のある世界と無い世界・・・。その繊細な無限の距離が二人の間を引き裂いていく。
バッハのレコードをかけるシーンがあった。音楽を愛する教師は、恋人が聞けないのが分かっていてもバッハが聴きたくなる。バッハから心の平安が欲しくなる。耳の聞こえない女性は、バッハを音ではなく、彼の身体で表現して欲しいと頼む・・。
そこで使われた曲が、バッハ「2つのヴァイオリンのための協奏曲」第2楽章だった。この映画で、この曲以外に二人の愛を表現できるものは考えられない。監督の選択の力に私は畏敬の念を持った。
その後、この曲を繰り返し聴いている。聴くたびに、バッハという人は神の言葉を音で人間へ伝える役割を果たす人なのだと確信する。私のその時の状況によって、この曲から伝わる言葉は微妙に変化する。しかし、一貫するのは許しと無限の愛が感じられることである。
私には繰り返し一生を通じて聴く旋律はいくつかある。この「2つのヴァイオリンのための協奏曲」第2楽章(BWV1043)は、そんな曲の一つである。

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