2007/2/21
「王子「扇屋の玉子焼き」」
落語『王子の狐』に出てくる『料亭扇屋』は今は料亭の方は閉めてしまったが、ここで玉子焼きを売っている。結構馴染みの人が買いに見えるので土日はかなり繁盛しています。先日、王子稲荷神社の初午(2月5日)に詣でた帰りの人たちで長い列が出来ていました。
落語:王子の狐
昔から狐、狸は人を化かすなんていわれている。狐は7化け、狸は8化け、狐と狸と比べると、狸のほうがひと化け多い。多いが、狸のほうは化けるにしても、大入道とか、一つ目小僧とか、博打場のさいころとか、どこか愛嬌がある。狐のほうは少ないが、どちらかというと利口で陰険で性質が悪い。民話でも、風呂だといって野良の肥溜めの中へ人を浸けたり、酒だといって馬の小便を飲ませたり、牡丹餅だといって馬糞を食べさせたり、蕎麦だといってミミズを食べさせたりする。
けれど、狐はまた、稲荷の使い姫だといって、信仰の厚い方は、たいへん狐を大切にする。この稲荷を江戸の人々はたいへんに信仰していて、初午の日になると、どこの稲荷も参詣客でたいへん賑わったが、ある男が、吉原でもてて、初午の日をすっかり忘れ、翌日になって、王子稲荷へ行ってみると、人影もなくシーンとしてもの寂しい。参詣を済ませて、根岸口の裏道を歩いていると、畦道の脇の稲叢(いなむら)のところで、狐が一匹、頭の上に一所懸命、草をのせている。不思議に思ってじっと見ていると、くるりとひっくり返り、たちまち二十二、三の女に化けた。
「ああああっ・・・化けた!えっ?こりゃおもしれえや。話には聞いていたけど、目の前で狐が人間に化けるなんてのは初めてみたよ。うまいもんだね。乙ないい女だねぇ。あの縞のお召しの着物なんていうのは、どこから覚えてくるんだろうね。帯だってちゃんと締めてるしなぁ。たいしたもんだね。あれじゃ化かされるのも無理はねえな。これから誰を化かそうてんだな、誰か来るのかな?誰・・・・・辺りに人影が無いところをみると・・・・俺だよ、俺を化かそうってんだよ。俺が女好きだってんで、それで女に化けやがった。こらぁえれえことになったぞ、見込まれちゃったな。でも見といて良かったね。あれを見てなきゃもうやられてるよ。・・・だが待てよ、種(ねた)がわかっているんだ。向うで化かそうってんなら、一つこっちでもって一番化かされてやろうじゃないか」と、眉に唾をつけて、近づいていって、
「玉ちゃん、玉ちゃん・・・」「あらっ、まぁ・・・・兄さん」
「あれっ、口をききましたよ。『コオン』てなことは言わないね・・・おどろいたねどうも、あぶねえ、あぶねえ。もうやられかけてらぁ」 ・・・
「い、いやいや・・・せっかく逢ったんだから、どうです?どっかえいきましょう」
「あたしぁかまわないんですけれども、兄さんこそあたしみたいな者と一緒ではご迷惑・・・」
「とんでもねえ。そんなら、この先に扇屋という料理屋がある。そこへ行ってご飯を食べながら、ゆっくりいろいろとお話しましょう」 「では、お供しますわ」
「じゃぁ、話はきまった。さぁ行きましょう・・・ええ、ごめんよ」「いらっしゃいませ
どうぞお二人さま御二階へご案内」。
てんぷらを注文し、お酒を飲み始める。狐はすっかりいい気持ち。ぐっすり寝入ってしまった。それを見届けた男は、土産の卵焼き3人前を折に詰めてもらい、勘定は二階からもらってくれといって先に出る。暫く後、店の者が二階の客を起こしに行くが、客はお勘定が自分持ちと聞いてびっくりする。と、狐は神通力を失い後ろのほうから太い尻尾がニューっと飛び出た。店は大騒ぎ、若い衆が五、六人二階に上がり狐をひっぱたき追いかける。逃げ惑った狐はようやく窓から飛び出した。男が帰りがけ友達に会い事の次第を話すと、友達に、お稲荷さんが寂しいだろうってお使い姫を出したのに何んて事をするんだ、と脅される。男はあくる日早く起きて、手土産を用意して、王子へ詫びにやってきた。昨日の場所にきてみると小さな狐がいる。子狐の話によると、おっ母さんが人間に化かされて、皆にぶたれて体が痛いという。男は子狐にお詫びをいい、手土産をおっ母さんにあげてくれる様頼んだ。)
「おっ母ちゃん、いま化かした人間てのが来たよ。『昨日は、別に悪気があったんじゃないんだけど、ついふらふらとやっちまって、おっ母さんによぉくお詫びしておいとくれ。お大事に』ってぴょこぴょこ頭ぁ下げてやがんのさ。で、ね、これ『つまらないもんだけどお詫びのしるし』だって持ってきたの・・・・おっ母ちゃん、これ、坊におくれよ」
「いけません。このごろの人間は油断がならないんだから・・・・あたしの見ている前で開けてごらん。いいとなったらお前にあげるから・・・・開けてごらん」
「あっ、おっ母ちゃん、おいしそうな牡丹餅だ」。
「あ、あ、食べるんじゃない。馬の糞かもしれない」
落語百選 麻生芳伸

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