2018/1/8

実態隠しと開き直りが目立つ不誠実な「子どもの権利条約日本政府報告書」  Z有効資料
  =子どもの権利条約=
 ◆ 第4・5回日本政府報告の検討と報告制度の効果的活用
(教科書ネット21ニュース)
   荒牧重人(子どもの権利条約総合研究所)


 はじめに日本政府は、2017年6月30日に国連・子どもの権利委員会(以下、CRC)に対して児童の権利に関する条約(以下、子どもの権利条約)第4・5回日本政府報告を提出した(外務省のホームページ「児童の権利条約」。以下、〔 〕内の数字は第4・5回日本政府報告の該当パラグラフ番号)。
 CRCによる第3回日本審査は2010年5月に行われたが、今回の政府報告では2006年4月〜2016年3月の10年間(ただし重要な施策や法改正については2016年10月まで)にとられた諸施策が記載されている〔3〕。
 これに対し、NGOレポートが日弁連、子どもの権利条約NGOレポート連絡会議、市民・NGO報告書をつくる会ほかから提出されている。
 今後、2018年2月上旬に事前審査、2018年9月〜10月(第79会期)に本審査がされ、総括所見が出される予定である。


 ◆ 第4・5回日本政府報告の全体的な問題点

 @今回の政府報告は、CRCの第3回総括所見に対応して回答している点および一定の範囲でデータを示している点が報告制度の趣旨からして前進面ではある。
 しかし、総括所見で指摘されている内容の理解が不十分で、形式的に前回の勧告に触れているにとどまり、報告制度を活用して条約を効果的に実施しようとする基本的な姿勢が見られない。
 また、「開き直り」とも受け取れるような箇所もある。
 また、今回の政府報告でも、「第3回政府報告パラグラフ○○参照」という記述が一定項目にわたり、当該分野での10年間にわたる取り組みの前進面あるいは課題が見えない

 A後述するように、「子どもの権利基盤アプローチ」を含め条約に関する基本的理解が不十分である〔38など〕。

 B法・制度の説明が多い一方で、データを見ても子どもたちの実態や施策の効果が見えない

 Cローカルガバメントとしての自治体の取り組みを活かそうという視点がない、など。

 このような全体的な問題点を持つ第4・5回日本政府報告について、その問題点を指摘するだけではなく、第3回の総括所見をどこまで実施しているかという点などについて、報告制度の意義や枠組そして限界を念頭において、NGOはNGOとしての「検証」結果を示すことが求められている。

 ◆ 子どもをめぐる今日的な課題に対応していない報告

 @今回の政府報告は・日本社会の子どもたちをめぐる今日的課題に条約がどのように貢献してきた(いる)のか、すべきかなどについて回答していないし、明らかにしようとする姿勢すら見えない。
 例えば・多くの子どもたちの権利に重大な影響を及ぼし統けている東日本大震災と福島原発事故(2011年3月)について、ほとんど言及していない。東日本大震災については、子どもの意見の尊重(条約12条)との関係でわずかに触れているにすぎない〔37〕。いまなお展望が見えない福島原発事故には、まったく触れていない。

 A今日の社会問題の1つである子どもの貧困についても同様のことが指摘できる。政府報告は、子どもの貧困対策推進法の制定(2013年)および子供の貧困対策大綱の策定(2014年)に簡単に言及するにとどめ、「我が国においては、子供の貧困に関する調査研究が必ずしも十分に行われていない状況に鑑み、子供の貧困の実態等を把握・分析するための調査研究等を進めているところ」〔14〕だとして、児童扶養手当・児童手当の存在〔117、118〕および支給額・受給者数等(別添2)について触れるにすぎない。
 子どもの貧困率やひとり親世帯の貧困率をはじめとする現在でも把握している関連データを提供していないし、そもそも国連やユニセフが強調しているようにこの問題を子どもの権利の視点から捉えていない。

 ◆ 教育・教科書をめぐる政府報告の問題点と課題

 @子どもの意見の尊重の項目においては、「学校においては、校則の制定、カリキュラムの編成等は、児童個人に関する事項とは言えず、第12条1項でいう意見を表明する権利の対象となる事項ではない」〔38〕などという一方的な解釈を今回の政府報告でも繰り返している。
 条約第12条1項の規定内容やその起草過程からもこのような解釈は導き出せず、CRC一般的意見12(意見を聴かれる子どもの権利、2009年)や多くの国に対する報告審査からしても通用しない解釈である。

 ACRCは第1回総括所見から日本における教育の競争主義的性質を問題にしてきた〔第1回22・43、第2回49・50、第3回70・71等〕。
 それに対して、今回の政府報告では、「仮に今次報告に対して貴委員会が……〔これまでと同様の一筆者〕認識を持ち続けるのであれば、その客観的な根拠について明らかにされたい」〔123〕と述べ、新自由主義改革によって加速されている教育の競争主義的な性質がもたらす子ども・教育に対する悪影響を考察することもなく、またいわゆる名門校に入学するための受験競争や全国一斉学力テスト等の導入による点数競争の実態などについて真摯に向き合うのではなく、「開き直り」とも受け取れるような記載が見られるのである。

 B歴史教科書の問題については、第3回総括所見パラ74で「日本の歴史教科書が,歴史的事件に関して日本の解釈のみを反映しているため、地域の他国の児童との相互理解を強化していない」ことが懸念されたが、今回の政府報告は、教科用図書検定調査審議会が検定基準等に基づいて審査しているので、それは「当たらない」〔128〕としている。
 2014年の義務教育諸学校教科用図書検定基準の改定により、社会科で「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」などを追加し、教科書への政府の介入を強化したり、採択において政府の見解に疑問を持つ教科書が排除されたりしている実態を無視している報告である。

 ◆ おわりにかえて一報告制度を効果的にしていくために

 このような子どもの権利条約をはじめとする人権条約の最も基本的な実施措置である報告制度を効果あるものにするためには、報告制度の意義や限界をふまえた上でその位置づけと実質化が必要である。
 ところが、日本政府は条約上の義務である報告制度を誠実に位置づけ履行しようとしていない
 現在の行政システムのもとで個別領域の条約実施に責任を持つ各省庁は、報告書の作成あるいはフォローアップの過程で個別にしか実態の把握と政策のチェックをしておらず、政府全体で子どもの権利状況や法・制度・施策等を定期的にモニタリングする機会にしていない。
 政府内で効果的な検証とフォローアップのための仕組みづくりとそこでの実質化が要請されている。
 NGOが提起して取り組んできたフォローアップのやり方一国会議員と政府とNGO・市民社会の三者による意見交換会のようなものを公的な仕組みにしていくことが望まれる。
 また、現在の「政府報告」を条約の文字どおり「締約国報告」にすることが必要である。政府が中心になって作成するとしても、国会で報告書について審議することが望まれる
 条約の実施についての監視は国会の重要な役割である。加えて、報告制度の実質化にかかわっては、総括所見の法的な意味や効力についての理解が必要である。「法的拘束力がない」などという理由でこの所見の実現を怠ることは、報告制度が成り立たなくなるといってもよく、条約の実施措置上許されないのである。(あらまきしげと)

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 117号』(2017.12)

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