2008/7/21
= 教職腐敗 (上) =
■ 「合格請負人」が暗躍
二〇〇六年九月、ハモの会席料理も味わえる大分市の創作料理店の個室。
大分県佐伯市の小学校教頭だった矢野哲郎容疑者(52)=贈賄容疑で再逮捕=は当時、県教委ナンバー2の教育審議監だった二宮政人容疑者(61)=収賄容疑で逮捕=と初めて向かい合った。
長女が受験した小学校教員採用試験の合格発表が、一ヵ月後に迫っていた。二人を仲介した中学校教頭も同席する中、矢野容疑者は五十万円の商品券を差し出した。「娘のことをよろしくお願いします」。商品券を納める二宮容疑者。頭を下げる矢野容疑者が、うわさで聞いていた「闇の合格請負人」にたどり着いた瞬間だった。
長女は試験に合格。二宮容疑者に、謝礼としてさらに五十万円の商品券を渡した。
「口利きの常態化は知っており、自分もそうしないと長女が受からないと思った」「娘を思う親心でやってしまった」。矢野容疑者は逮捕後、接見した弁護士にうなだれたという。
■「自分の採用も…」おびえる教諭
「誰かが話さなくてはいけない」。九日夜、大分県内の公立高校に勤める四十代の男性教諭は思い詰めた表情で口を開いた。
約二十年前に大分県教委に採用された男性が、教諭になって三年目のこと。「実は、おまえに投資をしたもんな。採用試験に合格させるためにある人に三百万円を払った」。自宅で家族と鍋を囲んでいると、小学校校長だった父親が突然、言った。ある人とは当時の県教育界の有力者だった。
男性は衝撃で腰を抜かし、救急車を呼ぶ騒ぎになったという。
一度目の受験で採用されず、非常勤講師の傍ら睡眠時間を削って猛勉強し、実力で合格したと思っていたのに…。「なぜ父親がそんな話をしたのか」。父親は今も健在だが、その後、互いに問うことも語ることもない。
汚職事件の発覚後、毎朝五時に起きては新聞各紙を買いに行き、事件の記事を読む。自宅で電話が鳴っただけで体がびくっとするほどのおびえと動揺で食欲がなくなり、一ヵ月で体重は五キロ落ちた。
学校では「うちの先生もわいろを払ったんじゃないの」という生徒のささやきも聞こえる。「そんなことはないと言いたいけれど、その通り。辞めようかと本当に悩んでいる」
収賄容疑で再逮捕された県教委義務教育課参事、江藤勝由容疑者(52)は「二〇〇三年度から教員の採用担当になり、成績操作を始めたが、以前から不正のうわさは聞いていた」と関係者に話しているという。
〇七−○八年度の採用試験だけでも、合格者八十二人のうち、四分の一以上が江藤容疑者による点数水増しなどによる不正な合格とみられる。
大分県の公立小中学校の教諭は約四千八百人、高校は約干八百五十人。不正はいつから、どんな規模で続いてきたのか−。教員採用をめぐる前代未聞の汚職事件は底無しの様相を呈してきた。
◇ ◇
大分県の教員採用汚職事件。子どもを教える立場の教育者が、教職や昇任を”売買”する不正に手を染めた背景や関係者の怒りを伝える。
『東京新聞』(2008/7/16)
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