
歴史は
とりなしの祈り手たちのものです
祈り手たちは
正義と自由を
すべての人たちのために
叫び求めました
説教 2004年6月20日 聖書 マルコ7:24-28
今日のマルコの聖書箇所は、偉大な物語です。生き生きとした、衝撃的な議論が描かれています。いやしの話しも出てき来ますが、それは、マルコがいちばん言いたかったことに比べたら、付随的なことでしょう。
登場する女性の名は知られていませんが、彼女は異邦人でありました。イエスは、群衆から離れて、休みたいと思っておられましたが、この女性が、そうはさせなかったのです。マルコによると、イエスは、「自分が世に来たのは、ユダヤ人だけのためである」と言われたことになっています。ところがこの女性は、イエスに訴えることにより、イエスの立場を変えたのです。イエスの心を変えさせたのでした。この女性は、自分の娘の病気という現実の必要を、神学と結び合わせたのです。この女性は、民族・階級・性別を区別するしきたりなど、まったく気にしませんでした。そうすることで、彼女は、自分の宗教的な関係を、自分と神との関係を、新しくかたちづくったのです。
この女性とイエスとの会話は、心が通い合った、心のこもった、現実的なものでした。彼女は、人生の現実も自分の必要も、ありのままにイエスに話しました。自分も神の子どもなのだから、そうしてよいはずだと、彼女は主張しました。そして、娘がいやされ、解放されるよう、願い求めたのです。
この女性は、福音書の中で、希望をいだかせる預言者的な存在となっています。彼女は、わたしたちがどのように祈るべきかを、教えてくれています。わたしたちは、自分でも気づかないうちに、自分の周りに、感情的・社会的な囲いを作ってしまうことがあります。そうした囲いからわたしたちが自由になるべきことを、彼女は、教えているのです。
十二世紀のイスラム神秘主義の詩人ルーミーは、こう書きました。「世界はこんなに広大なのに、なぜあなたは、いつでも狭い牢獄に閉じこもり、眠っているのですか?」
マルコの福音書の女性は、しきたりを無視して、イエスに近づきました。彼女は、物事を見抜き、声をあげる女性として、主張しました。そのことが、イエスご自身の自己理解に対して寄与したのです。それはまた、地上におけるイエスのからだである教会の使命にも、寄与しているのです。
イエスは、この女性の家庭生活を良い方向に変える力を、持っておられました。この女性は、「自分を取り巻く物事がどうなってほしいかをイエスに話したい。自分にはそうしてもよい資格があるはずだ」と考えたのでした。イエスとの対話の中で、ものごとの方向性が徐々に決まって行きました。彼女がそれに寄与したのです。彼女は、熱い思いと機知をもって、世の中での自分の経験を、訴えました。
神は、わたしたちとも対話を持ってくださいます。対話することが、神の属性だからです。神が沈黙されることもあります。わたしたちが、世界の不正と痛みに対して声を挙げて抗議するのを、神は沈黙の中で待っておられるのです。この女性のように、わたしたちも、自分のため、また、他者の必要のために、祈りましょう。ウォルター・ウィンクは、こう言いました。「歴史は、とりなしの祈り手たちのものです。その人たちは、正義と自由を、すべての人たちのために叫び求めました、その身分や境遇にかかわりなく」
この女性とイエスとの対話は、わたしたちと神との関係について、理解を深めてくれます。わたしたちもまた、対話の中に置かれているのです。わたしたちが沈黙の中に置かれることもあるでしょう。しかし、わたしたちが、お互いに対話を進めて行く中で、いやしと解放とが訪れるのです。
わたしたちも、この女性のように、確信を持って生きましょう。わたしたちも、苦しんでいる他者をおぼえて、祈りましょう。世界は広大であるのに、狭い牢獄に閉じこもって眠りこけている、そんなことがないようにしましょう。
ルーシー・ウィンケット
Canon Precentor Revd. Lucy Winkett
St.Paul Cathedral, London
ルーシー・ウィンケット師は、ロンドンの
セントポール大聖堂の聖堂参事会員であり、聖歌隊先詠者です。師は女性司祭として
英国史上初めて、セントポール大聖堂の聖堂参事会員(大聖堂の運営を担当する司祭団の一員)となりました。聖歌隊先詠者として、大聖堂で行われる礼拝のリタジー(典礼文と儀式と音楽の構成)と聖堂付音楽学校の監督にあたっています。
司祭叙任前にケンブリッジ大学のセルウィン・カレッジで歴史学を、バーミンガムの王立音楽院で音楽を学び、歌手としてプロ級の歌唱力を持っています。
1995年から1997年まで、チェルムズフォードの聖ミカエル教会で牧師補をつとめ、1997年から2003年まで、セントポール大聖堂付牧師と聖堂参事会員補をつとめ、2003年5月に現職に任命されました。
師は、
オルタナティブ・ワーシップ(非伝統的礼拝)の大きなイベントである「グリーンベルト」にも参加しています。