これは香川県の
平池(へいけ)に伝わる悲しい、お話です。
昔々讃岐の国は日照りの日が多く、いたる所で灌漑用の溜め池が作られました。
そのなかでも平池は良く堤防が決壊し、近隣の村人たちは水不足に悩んでいました。
「もう直ぐ梅雨やけど、こんままじゃ田植えもでけん」
庄屋の屋敷に集まった村人たちは口々に言いました。
「確かに、皆の言うとおりや。そやけど、このまま何度土手を
修理しても再び決壊したのでは無駄や。それに、もう資金も底をついた。そやけん、やるとしたら1回が限度や」
庄屋さんは思いつめた様子で言いました。
「もう、水神さまに頼むしかないの」
1人が言うと皆うなずきました。
「どうか水神さま、お願えするけん、うちらを助けてくれ」
皆真剣にお祈りしました。
そこへ、この界隈では見掛けない娘が通り掛りました。
「なにしとん?(なにをなさってるんですか?)」
娘が訊ねました。
集まった村人たちが事の次第を娘に説明しました。
「それは人柱をたてなければいけんな(いけません)」
娘はそう言って立ち去りました。
人柱とは神さまに何か大きな、お願いをする時に人を生き埋めにして神さまに捧げるという、ひどい行為でした。
そして犠牲になるのは若い娘と相場が決まっておりました。
「五平のとこのオタネは今年18じゃの」
「いや、うちの娘はアカン、来月嫁入りが決まっとるけん」
「そんなん初耳や!」
「そな(それなら)お前のとこのオウマは、どうや?」
「まだ13やろ!」
そういう具合に中々決まりません。
それはそうです。
誰だって自分の娘を人柱なんかにしたくありません。
散々議論した挙句に、ひとりが
「ほな(それなら)明日日の出から皆で土手に集まって、
そこを最初に通り掛かった娘を人柱にせんか?」
と提案しました。
「うん、それがええ」
皆賛成しました。
しかし若い娘は誰も通りません。
それはそうです。
村の娘は皆土手に近寄りません。
何日か経った或る日、以前通り掛った娘が土手を通り掛りました。
たちまち娘は捕らえられました。
「済まんが悪く思わんといてくれ」
娘を縛った村人が言いました。
娘は
ああ、何てことを言ったのだろう!
あんな事を言わなければ良かった
ここを通らなければ良かった
娘は、そう言って後悔しましたが、もう無駄でした。
そして完成した堤防は決壊する事はありませんでした。
しかし村人たちは次第に犯した罪の重大さに責め立てられました。
ある者など
「夜中に娘の幽霊を見た」と言いだす始末です。
そして造られたのが
言わざら、来さら
の碑です。
※今回の作品を書くにあたり薩摩おいどんの方言指導
を仰ぎました。
絵本と童話の作り方

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