「プレカリアート」と言われても、いったい何のことやらようわからんという人のほうが今はまだ多いだろう。私自身も先日初めて聞くまで全然知らなかったのだが、アルバイトや派遣労働などの形でしか職を得られない、生活基盤の「不安定な」(precarious:英語)人たちを指す言葉として、ヨーロッパあたりでも最近使われるようになった造語だそうだ。日本でも、いわゆる「フリーター」のほか「ひきこもり」や「ニート」などまでも含めた概念として昨今用いられるようになっているらしい。「フリーライター(から進化した100円ライター)」である私なんぞも該当するのだろうか。
で、その日本版「プレカリアート」の人たちが先週土曜日(5日)の午後、神田から秋葉原にかけての一帯で「サウンドデモ」をやると聞き(主催者側が公表している詳細は
こちら)、まずは様子を見に行ってきた。既に「
レイバーネット日本」が当日の模様を映像で紹介しているけれども、一応こちらでも報告しておきたいと思う。
(つーかね。実は既に1回、結構長めのルポを書き上げたんだけど、アップする段階でPCがいきなしフリーズし、そのドサクサでデータが全部消えてしまったのですよ……。ショックでしばらく書き直す気力が起きなかったけど、ようやくここまでまとめなおした次第)
ところで今回のこの「サウンドデモ」、事前にあちこちから開催案内や参加呼びかけのメールが私のもとにも寄せられていたのだけど、同時に何やら不穏な情勢を匂わせる話も舞い込んできていた。
「
共謀罪に反対する表現者たちの会」からも西村仁美さんがビデオ取材に行くというので「私も野次馬で見に行くよ〜」と呑気に伝えていたのだが、前日になってその西村さんより「『表現者たちの会』の取材班として現場ではなるべく固まって行動したほうがいい」との申し出が。どういうことかと訊ねると、何でも当日は公安を含むかなり大勢の警官がデモの警備というか監視に動員される見込みであり、既に顔も名前もとっくに公安のリストに載ってしまっているであろう「表現者たちの会」メンバーなどは些細なきっかけからパクられる危険が大いにあるので、単独行動は控えたほうがいい――というのであった(例によって寺澤さんからも結構脅かされたらしい)。
何を大袈裟なと思う人もいるかもしれないが、実のところデモの主催者側も当初から警察の介入には相当神経質になっているらしかった。というのは、同じ人たちの主催で去る4月30日に渋谷・原宿周辺で行われたサウンドデモの際には、警官200人が動員された挙げ句、デモ参加者の中からDJなど3人が道路交通法違反や公務執行妨害の容疑で逮捕されるという事件が起きていたのだ。今回のデモはそれに対する抗議の意味合いも当然込められており、だとすればなおさら再び同様の事態が起きたらマズいというわけだ。
西村さんもデモの一部始終に密着するルポ取材を主催者側に対して持ちかけたものの「参加者の顔が当人とはっきりわかるように写ってしまうのは……」と難色を示されたという。公道で行われるデモに参加しておいて肖像権を主張するのもあんまりどうかなという気はしたけれども、ともあれ、そこまでナーバスになっていたということだ。
そんなわけで少々気が重くなるものを覚えつつも、当日はデモが始まる1時間ほど前に出発地の総評会館前まで行ってみたら……いやあ、いるわいるわ、このところの「共謀罪」関連デモなどでもおよそお目にかかったことがないような数のオマワリさんたちが。土曜日の午後だというのに本当に御苦労なことである。しかも良く見ると、私服の公安警官たちの多くは今日に限ってわざわざ「警視庁」の腕章を御丁寧にしていたばかりか、手にはしっかりとビデオカメラまで備えて虎視眈々とニラミを利かせている。おかげで出発前の狭い歩道上では、下の写真のように「表現者たちの会」(真ん中の3人)と、なぜか結構似通った出で立ちの公安諸氏が呉越同舟よろしく佇む光景も(笑)。我々がこの間、警察の介入を受けるたびにビデオで撮ってはすぐさまサイトにアップしたりしてたのに刺激されたのかどうかまでは知らないが、互いに今やもう「撮られたら撮り返せ」的な関係になってしまった感じだ。
さらに、デモがスタートするや今度は制服警官の数が異常増殖的に膨れ上がっていくこととなった。まず出発して最初に左折する小川町交差点に差し掛かったところで、反対側の角が青い制服で埋め尽くされていたのに面食らう。本郷通りを少し進んだところの歩道橋上には、カメラを抱えた私服が電線の雀状態。駆け上がって彼らに混じりながらデモ隊の全景を撮影したが、なんというか、これじゃデモを警官が監視しているのか、それとも警官のデモにプレカリアートたちがつき合わされているのかという感じさえしてくる。
それでも参加者たちは先頭のワゴンから流れてくる音楽に合わせて思い思いに踊ったり、時折「給料上げろー!」「警察帰れ―!」とか声を上げながら、結構このデモを楽しんでるみたいな感じだった。一方、すぐ横の路上は警官や我々取材者、通りがかりの歩行者が錯綜するイモ洗い状態。散発的ではあったが警官との衝突も当然起こった(幸いにしてというか、逮捕者は最後まで出ず)。
デモ隊の行く手には警察の先導車が。こちらも御大層な監視用車両まで持ち出しては、御覧の通りの居丈高ぶり。誰かがガードレールに躍り上がったりしただけでも、すぐさま降りろだの何だのと、まあ実にやかましい。
「
デモ隊の諸君、すみやかにこの交差点を通過しなさい! 通過後は隊列を四列に整え、できるだけ車道左側を行進しなさい! ただいまの警告時刻午後4時23分! こちらは万世橋警察署長である!」
――なんていう拡声器からの声を聞いていると一瞬、自分はいつの時代のどこの国に来たんだろうという不思議な気分に浸ってしまうのだが、しかし紛れもなく、これは今という時代の、日本の首都のど真ん中で白昼堂々展開されている光景なのであった。
「200人ぐらいは来てましたね」と、デモ終了後、撮影取材に来ていた朴哲鉉(パク・チョルヒョン=『共謀罪、その後』監督)さんが警官の数を数えて言った。かつて長らく軍による独裁政権の続いた国から来た彼の目にも、この日の情景は異様に映ったようだった。
ちなみにデモの参加者総数は後の主催者側発表で約150人。デモ隊の数よりも、それを監視する警官の数のほうが多いという倒錯状況には、もはや驚く気にもなれん。「プレカリアート」も確かに病んだ存在かもしれないけど、彼らを取り囲む世の中や「普通の大人」とか言われる連中のほうが今やよっぽど病んでいるのだ。

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