珊瑚VSミノタウロス

  | 投稿者: 月華守屋

犬夜叉の珊瑚の恰好を見ていたら描きたくなりました。
ミノタウロスにぐちゃぐちゃにされる話です。表紙も血にしてみました。
自分では珍しくR−18Gです。



 目を覚ました時、珊瑚は戦装束の姿のままで倒れていた。地面に突っ伏していた事で土が唇や頬についていて、口の中に砂が入っていたため唾と共に吐き出してから起きあがった。
「ここは……どこ……?」
 場所を確認しようと思っても周囲には霧がたちこめており十歩ほど進んだ先で視界は完全に途切れている。
「犬夜叉! 法師様! かごめちゃん! 七宝!」
 直前まで一緒に旅をしていた仲間の名前を呼んでも返ってはこない。まるで乳白色の霧に吸い込まれてしまったかのようだ。妖怪を退治する者として何匹も倒してきた珊瑚は妖怪が引き起こした術もいくつか体験している。濃すぎる霧は妖怪の仕業と考えるには十分だ。だが、解せないのは気がつく前と後の記憶が全く繋がっていないこと。
(私は確かに法師様達と旅を続けていた……格好も戦装束ではなく普段のものだったはず……あ、それに)
 珊瑚は自分の姿を改めて見下ろす。腰まである髪は頭の上の方で束ねて馬の尻尾のようにして動きやすくしている。体は肩当てと胸当てをつけて下には体の線を強調するような黒の戦装束。腰には一振りの刀。
 しかし、それ以外の武装はない。普段は腕に仕込んでいる刃や、なによりも最大の武器である飛来骨がなく、いつも共にいる猫又の雲母もいなかった。犬夜叉達と道中ではぐれる可能性はあるにしても、雲母は必ず自分の傍にいる。そこまで考えて珊瑚は一つの結論を出した。
「これは……やはり妖術」
 妖怪退治の専門家である珊瑚だが、邪気や妖術への耐性はほとんどないため精神的な攻撃には苦戦する傾向にある。今回もまた、その手の攻撃なのかもしれない。珊瑚はひとまず腰の刀を抜いて身構えた。精神攻撃だとしたら、これは現実とほぼ変わらないような夢で、受けたダメージが肉体に及ぶということもあるかもしれない。
 脱出するには元凶を叩くこと。
 自分の状況を理解して気を落ち着かせると同時に、霧の向こうから急に地鳴りが聞こえてきた。一定間隔でずしん、と腹にくる衝撃。唐突にこの霧の空間に現れたかのようで珊瑚は困惑したが、見えない先からくる圧倒的な闘気は本物。周囲に影響されてかどこかぼんやりとしていた意識が完全に覚醒し、退治屋としての自分に完全に書き変わった。
(なんなの……この圧迫感……空気が、重い)
 周囲の霧を構成する粒の重さが増えたかのように珊瑚の両肩や背中に圧力がかかる。座り込んでしまいたい衝動を押さえていつでも動けるように準備をしていると、圧迫感の正体が顔を出した。
「グォオオオオッ!」
 現れたのは珊瑚の三倍はあろうかという体長の魔物だった。地鳴りのような音は地面を踏みしめて近づいてくる音。腕の長さだけでも珊瑚と同じくらいありそうな両腕を広げて鼻息を荒くしていた。ただ、それは人型であり人ではない。
「牛鬼……?」
 人型の頭部は牛のものだった。珊瑚には分からなかったが西洋でいわれるミノタウロスだ。赤銅色の体に茶色い胸毛。股間は何もつけておらず、まだ通常状態の一物が見えている。気づいた珊瑚は年頃の少女らしく顔を赤らめてしまった。
(なんなの……でも、妖怪なら!)
 珊瑚の目から見れば妖怪であることは間違いない。飛来骨という最大の武器がないが、おそらくは敵を倒せばここから抜けられる。直感的に悟り、珊瑚はまず相手の出方を見るために腰溜めに刀を構えていつでも動けるように準備する。珊瑚が戦闘体勢に入ったからなのか、それまで両腕を掲げつつゆっくりと進んでいたミノタウロスが止まり、炎が猛ったかのような赤い瞳が珊瑚へと向いた。
(――くるっ!)
 珊瑚が飛び退いたのとミノタウロスが突進して拳を振りおろすのはほぼ同時だった。見た目がいかつい筋肉の力を十二分に発揮して、珊瑚との距離を一瞬にして縮めると地面をえぐった。拳がめり込むだけではなく周囲が破壊されたことからも何らかの力を使っているとは想像に難くない。
(勝てない! 今の私じゃ!)
 即座に珊瑚は悟る。少なくとも飛来骨がなければ勝ち目はない。攻撃でも防御でも飛来骨があれば力勝負を少しは受けられる。むろん、女の身でミノタウロスの攻撃と拮抗するとは思えないが、一瞬だけでも受け止められればかわす隙がある。刀一本ではミノタウロスの体に刃を立てられるかさえ分からない。抵抗さえできないということは選択肢も限られるということ。そして、そこに蓋をされれば珊瑚の命はない。
「グオオオアアアアオオオ!!」
 一撃をかわされたことに怒ったのか、ミノタウロスは先ほどよりも大きく吼えて突進する。ただの徒手空拳が珊瑚には仲間が放つ必殺技と同レベルに思えて距離を大きくとることでしかかわせない。近くにいれば間違いなく巻き込まれる。ミノタウロスが動く度に空間が歪んでいるような気がした。
(こういう時は実際にそうなってると思ったほうが、いい)
 冷静に――とはいかないまでも珊瑚は相手の戦力を分析し、結果、逃げる選択肢をとった。少なくとも、今は勝てない。ただ、ならば時間を置けば勝てるようになるのかといわれると疑問が残る。妖術の類ならば、少なくとも仲間達が術者を倒してくれるまでこらえる必要があった。
(それでも、私だけでもあいつを倒す手だてを考えないと)
 珊瑚は道端にあった掌大の石を走っていく中で拾い上げるとミノタウロスに向けて投擲した。五十キロはある飛来骨をいつも投げているだけに、細腕にはそぐわない力がある。まっすぐにミノタウロスへと向かった石がどうなるかを見極めんと珊瑚はしっかりと視線を向ける。
(普通に避けたり腕で弾いたりしないなら、何かあるはず……)
 体の周りになんらかの障壁が張られていなければ攻撃は通る。腕の攻撃をかわして懐へと入り込み、刀で刺せば他の妖怪達のように倒せるはず。そう判断してのこと。だが、ここで珊瑚が予想していないことが起こった。
「グオオ!」
 投擲した石が、ミノタウロスの額にあたり、衝撃でミノタウロスは後ろへと倒れていた。避けることも防ぐこともせず、不可視の力で消されることもない。ただ、石をぶつけられてひっくり返っただけ。珊瑚は即座に走り出していた。
(攻撃に夢中になって防御に気が回っていない!)
 起きあがろうとするミノタウロスへと駆ける珊瑚。両腕をついて立ち上がろうとしているミノタウロスは接近した珊瑚の察知が完全に遅れて額にまだ痣が残る頭部を上げる。
「はあっ!」
 珊瑚が下から上へと刃を走らせるとミノタウロスの右耳が切れる。どんな頑強な生物でも弱点足りうる目を突こうとしていたが、ミノタウロスもさすがに危機を感じたのかかわしていた。
(この妖怪……さっきはかわさなくてもいいと思ったのか!?)
 交差して互いに距離をとったところで再びミノタウロスが突進してくる。珊瑚は大きく飛んで距離をとろうとするが、一歩の歩幅が大きい上に足の動く速度も尋常ではないミノタウロスは時間さえも縮めたかのように珊瑚の前に現れた。
「あっ――」
 珊瑚は振りおろされる拳を視界に入れながら何とか逃れようと身をよじる。その甲斐あって、拳は空を切り地面へと突き刺さる。だが、瞬間的に発生した空気の爆発によって珊瑚は弾き飛ばされた。
「きゃあああ!?」
 地面が爆発したことでえぐられた大地が飛んでくることもそうだが、空気の爆発で見えない刃が珊瑚の体を切り刻む。体を包む黒装束は打撃や斬撃についてある程度防ぐように出来ている。体へと痛みは通るが、致命的な傷を負わないように作られていた。しかし、ミノタウロスの風圧は易々と珊瑚の装束を斬り裂き、肌を見せることになった。
「あうっ!?」
 受け身をとれず地面に叩きつけられた珊瑚は、衝撃で止まる呼吸に苦しながらも体を起こそうとした。しかし、左足を掴まれたと同時に持ち上げられて逆さ吊りにさせられてしまった。眼前には顔面に筋が走るほど力を入れたミノタウロス。呼吸が戻ると共に珊瑚は奇跡的に手放していなかった刀を振るい、自らを突き上げている腕へと突き立てる。だが、不完全な姿勢からの突きはミノタウロスの皮膚の硬さを貫通することはせず、まるで大岩へと刀を突いた時のような衝撃に腕が痺れた。
 そしてミノタウロスは「獲物」の反撃を許さなかった。
「ウォオオオ!」
 左足を掴んでいるのは左手。残った右腕はミノタウロスの腰に添えられて、膨れ上がる殺気と共に珊瑚の腹へと吸い込まれた。
「――っ!?」
 体に見合った大きさの拳であるため、珊瑚の腹というよりは胸から下腹部にかけての強烈な一撃。それこそ、大きな岩が激突したかのように珊瑚は吹き飛ばされ――はしなかった。
「ぁ……ぁああああ゛あ!?」
 左足を掴まれているため、吹き飛ばされずにいた結果、掴まれていた左足が膝から折れていた。強烈な一撃に失われた意識が骨がへし折れる痛みによって覚醒させられる。激痛は膝だけではなく拳を叩き込まれたところからも伝わってくる。全身といっていいだろう。珊瑚自身は痛みによって頭の中がかき乱されて正常な思考が出来る状態ではない。気を失えないことでの痛みの継続は彼女に苦しみしか与えない。
「ぁあ゛あ゛!ああああぁあああ゛!」
 自分が何を叫んでいるのかも分からない。そしてミノタウロスは騒音と判断したのだろう。珊瑚を掴んでいる腕を振り上げて、地面へと叩きつけた。
「げぼぉっ!?」
 衝撃に内蔵が破裂したのか、血が口と同時に耳や鼻からも吹き出す。ミノタウロスが左手を解放すると、あらぬ方向にひしゃげた左足が露わになる。だが、それ以上に。
「グゥオオオオアア!」
 解放した左腕を併せたミノタウロスは最大級の力を集めて飛び上がり、勢いを乗せて地面に横たわる珊瑚を押し潰した。


「――きゃぁああああああ!!?」
 弾かれるように体を起こした珊瑚は、激しい動悸を押さえるために胸元へと手をやって何度か大きく呼吸をした。体中の水分が抜けるのではないかというほどに汗が流れており、戦闘用の黒い装束の内側を伝うことが不快感を覚える。
 だが、動悸が収まってくると周囲の状況が理解できるようになる。まだぼうっとする頭を押さえてふらつきながら立ち上がった珊瑚は辺りを見回した。
「ここは……どこ……?」
 場所を確認しようと思っても周囲には霧がたちこめており十歩ほど進んだ先で視界は完全に途切れている。
「犬夜叉! 法師様! かごめちゃん! 七宝!」
 直前まで一緒に旅をしていた仲間の名前を呼んでも返ってはこない。まるで乳白色の霧に吸い込まれてしまったかのようだ。妖怪を退治する者として何匹も倒してきた珊瑚は妖怪が引き起こした術もいくつか体験している。濃すぎる霧は妖怪の仕業と考えるには十分だ。だが、解せないのは気がつく前と後の記憶が全く繋がっていないこと。
(私は確かに法師様達と旅を続けていた……格好も戦装束ではなく普段のものだったはず……あ、それに)
 珊瑚は自分の姿を改めて見下ろす。腰まである髪は頭の上の方で束ねて馬の尻尾のようにして動きやすくしている。体は肩当てと胸当てをつけて下には肌に貼り付いて体の線を強調するような黒の戦装束。目覚めた当初から感覚的に理解していたが、改めて自分が戦う準備をしているということが分かった。
 腰には一振りの刀。そして背後には最大の武器である飛来骨が置かれていた。
 ただ、武装はそれだけで、普段は腕に仕込んでいる刃などいくつかの武装はなく、更にいつも共にいる猫又の雲母もいなかった。犬夜叉達と道中ではぐれる可能性はあるにしても、雲母は必ず自分の傍にいる。そこまで考えて珊瑚は一つの結論を出した。
「これは……やはり妖術」
 妖怪退治の専門家である珊瑚だが、邪気や妖術への耐性はほとんどないため。精神的な攻撃には苦戦する傾向にある。今回もまた、その手の攻撃なのかもしれない。珊瑚はひとまず腰の刀を抜いて身構えた。精神攻撃だとしたら、これは現実とほぼ変わらないような夢で、受けたダメージが肉体に及ぶということもあるかもしれない。脱出するには元凶を叩くこと。
「……おかしい。これ、どこかで」
 珊瑚は内から生まれる違和感に眉をひそめた。初めて経験しているのに、どこかで経験したことがあるような気がする。起きる前に見ていた夢で似たような経験をした気がするが、夢の内容は全く覚えていない。ただ、かつてないほどの恐怖や苦痛に体がめちゃくちゃにされたような感覚だけが残っている。
「……うっ」
 急に吐き気がして地面に手を突き、内容物を吐き出す。食事がまだだったからか、ほとんとは胃液だけだった。違和感は更に強まり、珊瑚の意識を、体を侵していく。自分が自分でなくなるような、存在そのものを潰されるような圧迫感に呼吸さえもままならない。
 そんな状況の中で、珊瑚の体は遠くからゆっくりと近づいてくる足音を感じていた。
(なんなの……この圧迫感……空気が、重い)
 腹に来る振動が大きくなっていくと共に周囲の霧を構成する粒の重さが増えたかのように珊瑚の両肩や背中に圧力がかかる。座り込んでしまいたい衝動を押さえていつでも動けるように準備をしていると、圧迫感の正体が顔を出した。
「グォオオオオオオ!」
 現れたのは珊瑚の三倍はあろうかという体長の魔物だった。地鳴りのような音は地面を踏みしめて近づいてくる音。腕の長さだけでも珊瑚と同じくらいありそうな両腕を広げて鼻息を荒くしていた。ただ、それは人型であり人ではない。
「牛鬼……?」
 人型の頭部は牛のものだった。珊瑚には分からなかったが西洋でいわれるミノタウロス。赤銅色の体に茶色い胸毛。股間は何もつけておらず、まだ通常状態の一物が見えている。気づいた珊瑚は年頃の少女らしく顔を赤らめてしまった。
(なんなの……えっ?)
 自分が思い浮かべたことと全く同じ事を思い浮かべた記憶が、確かにあった。霧の中からはっきりと姿を表す牛頭の妖怪。はっきりと姿が見えるくらいまで近づかれたと同時に珊瑚は体を取り巻く違和感が体内へとするりと入ってくるような、不可思議な感覚を得た。そして、自分に振りおろされる拳を見て、とっさに背後の飛来骨を持って飛び退いた。地面がえぐれ、衝撃波と共に土が飛んでくる。持っていた飛来骨を前方に掲げて二種類の攻撃を受け止めつつ、体勢を立て直した。
 再び霧の中にミノタウロスは消えたが、殺気は見えていたとき以上に膨れ上がる。獣の咆哮が響きわたり、自分へと近づいてくる足音に膨れ上がる恐れを押さえ込みながら珊瑚は勝機を探すために蘇った「記憶」を探る。
(そうだ。私は……あいつに『殺された』んだ。体が潰れる感触も、ただ意識を失うんじゃなくて、もう二度と覚めなくなるほど深く落ちていく感覚もある……でも、生きてる)
 自分を圧倒的な力で『殺した』相手に殺される様が明確に脳裏に浮かんでくることで珊瑚は腰から下に力が入らなくなる。だが、すぐに地面を叩きつけるように右足で踏んで、気合いを入れ直した。自分が勝てないと最初から分かっているのだから、あとは勝つためにどうしたらいいか考えるしかない。
(今は「前」と違って飛来骨がある……これが、あれば)
 背負いなおした飛来骨。背中にあるだけでも安心感が異なる。自分の相棒として妖怪を何体も倒してきた武器。退治屋達が積み重ねた歴史の結晶。
「よし!」
 珊瑚は後退を止めてその場に両足をしっかりと立てる。霧の中をいくら駆けていてもどこにもたどり着けない。それはつまり、この霧もまた妖術で生まれたものであり、犬夜叉達とはぐれた要因に違いない。空間がねじ曲がり、隔離された場所となっているのだ。
「グオアアオアオオオオ!」
 前方から咆哮と共に赤い二対の光が見えた時、珊瑚は飛来骨を振り上げた。
「飛来骨!」
 女の細腕とは思えないほどの力で飛来骨が投擲される。充満する霧を斬り裂いて突き進み、ミノタウロスの巨体へと激突する。岩盤が破壊されるような音が響き渡って珊瑚は顔をしかめるが、追撃のために前へでる。
「グオオオオ!?」
 飛来骨によって吹き飛ばされたミノタウロスが倒れる音を聞きつつ珊瑚は飛来骨を中空で手に取り、はっきりと見える足から推測してミノタウロスの上半身へと二度目の投擲を行った。霧を巻き込んで引き裂くように、飛来骨が通った後には同じ形の道が出来る。道の端に倒れていたミノタウロスの上半身に飛来骨は激突し、その体を陥没させた。
「グオアアオアオ!」
「効いてる!」
 前の「記憶」のようにはならない。飛来骨があれば勝てる。心の中に勝機の炎が灯り、より積極的に前へと動こうとしたその矢先だった。
「えっ……」
 戻ってくるはずの飛来骨が動きを止めていた。足を止めて前方をみると、飛来骨の一部だけが霧から覗いている。ミノタウロスの足も同様に。
 そして、珊瑚の耳には何かの破壊音だった。バリバリと削られていく音。それが何を意味するのか背筋に悪寒が走るのと同時に、ミノタウロスは立ち上がって霧の中から現れた。
「あ、ああ……」
 ミノタウロスは手の中の飛来骨を喰らっていた。端から順番に噛み砕かれ租借される飛来骨。自分の相棒。仲間達から受け継がれた思い。それが、ミノタウロスの腹へと収まっていく。
「や、止めろ! やめろぉおお!」
 珊瑚は刀を抜いてミノタウロスへと斬りかかる。しかし腕にも足にも刃は立たず、さらに珊瑚など存在しないかのようにミノタウロスは飛来骨を食べ続けている。
「うああああああ!!」
 狂ったように刀を振り回し、ミノタウロスの体へとぶつけていてもびくともしない。やがて限界がきたのは刀のほうだった。甲高い音と共に半ばからへし折れた刀身を見て、珊瑚は刀を捨てると今度は殴りかかる。だが、刀が通じなかった体躯には拳も通らず、一回殴っただけで腕一本が痺れて動かなくなった。
 珊瑚の抵抗の間もミノタウロスは口を動かし続け、息を荒げる珊瑚の目の前で飛来骨の最後の一片を丸飲みした。
「あ、ああ……そんな……」
 力が抜けて膝を突き、座り込んでしまう珊瑚。対してミノタウロスは立ち上がり、珊瑚を見下ろして拳を振り上げた。迫りくる拳を呆然と見るだけとなる珊瑚。頭部へと拳が直撃した瞬間に、珊瑚の意識は切り取られていた。


「――きゃぁああああああ!!?」
 弾かれるように体を起こした珊瑚は、激しい動悸を押さえるために胸元へと手をやって何度か大きく呼吸をした。体中の水分が抜けるのではないかというほどに汗が流れており、戦闘用の黒い装束の内側を伝うことが不快感を覚える。
 だが、動悸が収まってくると周囲の状況が理解できるようになる。まだぼうっとする頭を押さえてふらつきながら立ち上がった珊瑚は辺りを見回した。
「ここは……どこ……?」
 場所を確認しようと思っても周囲には霧がたちこめており十歩ほど進んだ先で視界は完全に途切れている。
「犬夜叉! 法師様! かごめちゃん! 七宝!」
 直前まで一緒に旅をしていた仲間の名前を呼んでも返ってはこない。まるで乳白色の霧に吸い込まれてしまったかのようだ。妖怪を退治する者として何匹も倒してきた珊瑚は妖怪が引き起こした術もいくつか体験している。濃すぎる霧は妖怪の仕業と考えるには十分だ。だが、解せないのは気がつく前と後の記憶が全く繋がっていないこと。
(私は確かに法師様達と旅を続けていた……格好も戦装束ではなく普段のものだったはず……あ、それに)
 珊瑚は自分の姿を改めて見下ろす。腰まである髪は頭の上の方で束ねて馬の尻尾のようにして動きやすくしている。体は肩当てと胸当てをつけて下には肌に貼り付いて体の線を強調するような黒の戦装束。目覚めた当初から感覚的に理解していたが、改めて自分が戦う準備をしているということが分かった。
 腰には一振りの刀。そして背後には最大の武器である飛来骨が置かれていた。
 ただ、武装はそれだけで、普段は腕に仕込んでいる刃などいくつかの武装はなく、更にいつも共にいる猫又の雲母もいなかった。犬夜叉達と道中ではぐれる可能性はあるにしても、雲母は必ず自分の傍にいる。
「……また『死んでない』んだ」
 急速に蘇る記憶。自分は間違いなくミノタウロスに『殺された』のだと分かっている。だが、時間が巻き戻ったかのように同じ場所にいた。霧の中は空間だけではなく時間さえも歪んでいるのかもしれない。こんなことが出来る妖怪を珊瑚は知らなかった。恐ろしい力を持った化け物ということは理解できたが。
(でも最初は刀だけ。次は飛来骨……今度は何か違っていないのかしら)
 先ほど調べてみたことを繰り返す。体のところどころに仕込んだ武器はない。巻き戻ったということで装備が変わるわけではないのか。まだ二度しか経験していないのだから法則ではないのかもしれない。
(あの牛鬼は……?)
 珊瑚は飛来骨を前方に掲げていつでも攻撃を防御できるようにする。すると霧の向こうから徐々に殺気が膨れ上がっていく。これまで「経験」したミノタウロスの殺気。二度も「殺された」体がよく覚えていた。視界を遮り感覚をおかしくする霧の空間でも影響を越えてやってくる殺気。そして、音。
(なんだろう、この音)
 記憶が蘇ると共に珊瑚は過去二回の様子を振り返る。二回とも耳障りな足音と共に地面が揺れ、ミノタウロスの赤い二対の瞳が霧の中に浮かんでいた。今回は傍にいるのは間違いなく、足音とは別のものが聞こえてくる。いったい何なのかと珊瑚は自らの経験と知識を総動員して音の意味を探った。分からなければ大変な事になる。焦燥か積み重なっていき、額から汗が流れ落ちた。
 そして、珊瑚は音の正体に気づき駆け出す。
(何かが、何かを食べる音……咀嚼音! まさか!)
 一本だけの刀。飛来骨。自分の武器が増えていくとしたなら、次に増えるのは何なのか。武器と認識していなくても戦う時に使役するものなら。
 霧の中に浮かび上がるミノタウロスの背中。赤銅色の背中に向けて、珊瑚は叫んだ。
「雲母!」
 咀嚼音はミノタウロスから届いてきていた。背中の動きだけだと何かを黙々と食べていることしか分からない。だが、漂ってくる血の臭いが最悪の事態を物語る。
「雲母を放せ!」
 飛来骨をミノタウロスの背中へと命中させても、まるで大きな岩のように動かない。飛来骨がぶつかったということさえ認識していないかのように、ミノタウロスは雲母の体を喰らっていた。
 珊瑚は表に回り、血を吹き出している雲母の姿を見た。首筋から喰らいつかれ、次から次へと肉を喰いちぎられる雲母。右前足はすでになく、ミノタウロスの胃の中に収まっているのだろう。歯を立てられる度に体をかすかに痙攣させているのは意識があるからなのか、それとも反射的なものか。瀕死の重傷を負っていることは間違いない。
「うあああああ!」
 だからこそ珊瑚は少しでも早く助けようと動く。飛来骨を顔面へ叩きつけ、着地してからは投擲する。ミノタウロスの顔面に二度、三度とぶつけていっても咀嚼を止めない。まるで蚊に刺されている程度の痛みしか感じないのかもしれない。絶望に胸の内が浸食されてもそれは絶叫で上書きする。もう雲母は助からないという考えを怒りで上塗りする。
「放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せぇえええ!」
 飛び上がった珊瑚は飛来骨を両手で持って渾身の力を込めて頭上から投擲した。普段の数倍の速度でミノタウロスの頭に衝突した飛来骨の威力はさすがに効果があった。
「グオオオオア!?」
 ミノタウロスは咀嚼を止めて後方へと倒れ込む。手にした雲母を放り投げて頭を押さえのたうち回るのを見ずに、珊瑚は雲母の元へと走っていく。霧によって雲母の投げ捨てられた方角しか分からないが、血の臭いからすぐに場所が分かった。
「雲母!」
 霧の中に見えた後ろ足から胴体の位置を推測して飛びつく。しかし、そこには地面があるだけで雲母の毛並みがない。
「あ、ああ……」
 あったのは、雲母の後ろ足が一本だけ。地面との衝突でバラバラになったということではなく、すでにミノタウロスが大部分を食べてしまったということ。
「グオオオオ」
 間近で聞こえたうなり声に振り返ると、ミノタウロスが口を動かしながら立っていた。口元に見えるのは飛来骨の端。最大の武器である飛来骨もまた、ミノタウロスの胃の中へと消えていった。
「い、いや……こないで……」
 珊瑚は座り込んだまま後退する。体の震えは止まらず、股間からは小水が流れ出していた。
 瞳からは涙が溢れる。子供のように失禁し、泣きながら珊瑚は己の身を包み込む恐怖に屈した。
「たす、けて……法師、様……」
 思い人の顔が浮かび、この場に助けにきてほしいと切に願う。しかし、この空間で珊瑚の思いが叶ったことなどない。全ては力でねじ伏せられる。
「グオオオアアオオ!」
 ミノタウロスは吼え、座り込んだままの珊瑚の上半身を掴む。顔の高さまで持ち上げられると珊瑚の目には怒りの赤で染まった瞳が飛び込んできて、さらなる恐怖に小水の勢いが増した。股間から装束を透過して落ちてくる水にミノタウロスは口を近づけてくる。
「ひっ!?」
 股間へと噛みつくように口を付けられ、珊瑚は体を硬直させた。このまま股間を喰いちぎられる可能性も十分にある。しかし、ミノタウロスは股間の装束を破き、恥部を露出させると舌で丁寧に舐め始めた。
「あっ……い……ひっ!? 〜〜〜っっ」
 これまで感じたことのない悪寒が背筋を駆けのぼり、身を縮こまらせて動けなくなる。ミノタウロスはその巨体と力任せな動きとは裏腹に丁寧な舌使いで珊瑚の膣口を刺激していく。入り口を上下に舐めつつ、陰核も舌先で転がして、未開発だった珊瑚の性感帯を開発しようとしている。同時に上半身の装束を前面から剥く。両側から掴んだ手を器用に操って片方だけで珊瑚の体を支えると、もう片方の手で装束を引き剥がす。知性ある動きに珊瑚は自らの裸体がさらされる恥ずかしさよりもミノタウロスの存在への恐怖が勝っていた。
(この妖怪……なんなの……やめて……助けて……)
 退治屋としての矜持は雲母が食べられ、飛来骨が消えたことでなくなっていた。ただの、鍛えられた体を持つ少女はミノタウロスにとって格好の「餌」となる。そのことを知らない珊瑚は、地面に寝かせられた段階でも何をされるのか理解できなかった。
「あ……」
 珊瑚の格好は黒い装束の前だけが剥かれていた。小降りの乳房が若さを主張し、舐められた陰部はミノタウロスの涎によってどろどろに濡れている。ミノタウロスのほうの変化は、股間の逸物がはっきりと存在を主張していること。そそり立つ肉棒を見ても、珊瑚にはもう逃げようとする気力も残っていなかった。
 両足を広げられ膣口へと逸物があてがわれる。かすかに広げられる痛みに硬直した珊瑚は、続けてくる挿入からの激痛で口を大きく開いた。どんな妖怪の攻撃よりも、肉棒が体内をえぐる痛みは強かった。
「あが……が……ああ゛! い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
 ミノタウロスの逸物が半分ほど入ったところで動きが止まる。すでに珊瑚の膣内の限界まで挿入されたからだが、ミノタウロスは力を込めて押し入り、子宮口まで強引に入る。女の聖域を土足で踏みにじられたかのような絶望は、抽送が開始されると共に粉々になる。
「いだい!? いだい! ああ! やめ゛でぇえ゛え゛え゛」
 下腹部がミノタウロスの性器の形に盛り上がる。動くと同時に処女膜が破られた事による破瓜の血が流れだし、無理矢理広げられて傷つけられたことによる血と混ざりあう。グチャグチャと発せられる音はミノタウロスのスペルマも絡んだもの。珊瑚の体のことなど考えずミノタウロスは自らが精子を出すためだけに腰を動かしていく。
「グオオオオオオオアアアアオオオ!」
 ミノタウロスは逸物に刺激を与えやすいようにするためか、立ち上がって珊瑚の腰を動かす。下半身を持ち上げられたことで自然と珊瑚は逆さ吊りのようになるが、ミノタウロスは全く気にしないため、珊瑚の下腹部から斜め前にミノタウロスの肉棒が突き出そうになる。
 それでも壊れない体と心。退治屋としての厳しい鍛錬の結果、ミノタウロスにとって良い性交の道具となってしまった。
「あぁあああやめあああぁあああ!」
 嫌がる言葉。声にならない言葉を繰り返す珊瑚のことは全く気にせずに、ミノタウロスは抽送を激しくし、やがて奥まで突き込んだところで精液をたっぷりと放出した。
「ぁあああああああ!!」
 子宮口まで届いていた肉棒から放出された精液は子宮の内部を満たし、膣を逆流して入り口で吹き出す。肉棒で蓋をされていたが、ミノタウロスが抜くと同時に滝のように流れ出した。膨らんでいた腹が徐々に小さくなり、元に戻った時には血の赤と精液の白が混ざりあった液体がミノタウロスの足下に広がっていた。
「かはっ……あっ……」
 放心状態で時折痙攣する珊瑚を精液の海へと落とし、ミノタウロスは二度目の挿入を開始する。両腕を掴むとほぼ同時に骨が砕ける音が響き、珊瑚は一瞬にして気を失った。砕けた両腕を掴んだままミノタウロスが臀部を打ちつける度に珊瑚の体の中が壊されていった。

 退治屋の少女がいつ死んだのか誰も分かる者はいなかった。ミノタウロスは母胎として役に立たなくなった珊瑚の体をただ性欲を吐き出すためだけに使い、骨まで食らいつくして彼女の存在はこの世から消えたのだった。
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