2011/11/11 9:00
【Dolls】 ぬばたまの夜を越えて(1) +Dolls
【Doll's Story】【忘れえぬ人への想い】【オーギュ&ミシェル】
君を失うくらいなら、何もかも引き換えにしてもいい、それが愛だろう?
je t'aime ぬばたまの夜を越えて(1)

「秋はメランコリックになるものさ。」
何時も深まりゆく秋の日の一日を繰り返す、“時止めの洋館”。
中庭に降り積もるプラタナスの落ち葉を、
Dollの執事や下男たちが、綺麗にかき集めている。
その傍らのベンチで、スケッチブックに向かっている西園寺と
彼の隣で、そんな彼の描く絵をじっと見つめている彼のラバー・煉翠。
そして彼らの足元には、庭を走りつかれたのか、
寝そべり少し居眠りをしているかのような、大きな犬がいて。
人やDollたちの気配でにぎやかな東館と、対照的に静まり返った西館。
そんな風景を、北館の自室の窓から見ながら、
ふと成宮氏が何かを思い出したように、僕に言った。
「ジル…僕はね、あんまり本当は秋は好きじゃないんだ。」
僕は、ソファに座ったままで、黙ってじっと彼を見つめていた。
「秋の夜長はいろんなことを思い出す…
思い出さなくてもいいことも、思い出したくもないこともね…」
その横顔が、なんだかすごく辛そうな顔に見えて…
僕は思わず右手を伸ばし、口を開きかけた…
でも、こんな時、何て言えばいいんだろう…
解らない…僕はこんな時、
僕の大切な人のために捧げる言葉を、まだ知らない…
そのもどかしさに、グッと歯を食いしばり、また黙り込む。
右の手を差し出したまま固まっている、そんな僕に気付いたのか
ゆっくりと振り返ると、僕を見て微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。ジル。
ちょっと、メランコリックなことを思い出しただけさ…」
そんな成宮氏が、思い出したのはどんなことだったのでしょう
時止めの洋館の住人にはいろんな人がいますが、
今日は、彼の留学時代の学友だった
“碧の眼のオーギュスト”の話をしましょうか。

je t'aime Mon amour いつまでも ぬばたまの夜を越えて(1)
By.神魂未生.
「ナルミヤ。聞いてくれよ。ミシェルったら酷いんだぜ。」
いきなりノックもなしに部屋に入って来たオーギュストは、
それこそ挨拶もなしに、苦笑交じりにそう私に訴え始めた。
彼の背中には、そんな彼の口塞ごうと、彼の恋人が追いすがっている。
小柄で、コケティッシュなどこからどう見ても美少年、というその風体は、
当時二十五歳だった私が、二十歳前の子供に周囲から見られる以上に、
年齢不詳だが、驚くべきことに実は二十六歳で、私よりも年上だ。
その美少年、いや美青年の名は、ミシェル・ポールドゥメール。
そして、彼の恋人である美丈夫の名は、オーギュスト・ジョルジュマンデル。
共に、このケンブリッジでは珍しくない、フランスからの留学生だ。
ことに、このイーデルボック寮は、大学院生ばかりが住まう寮で、
ある程度の階層以上のものが住まう、いわば特権階級用の寮。
つまりそれなりのものばかりが住んでいるハイソな寮だと言う訳だ。
さもありなん。なんせ、彼の実家は、格が違う。
フランスでも数少ない14世紀から続く貴族の家系。
ジョルジュマンデル家の一族は、代々金髪碧眼の一族であり、
それなりの家系のものと、婚姻関係を築いてきたためか、
欧州中の貴族と何らかの関わりがあった家系…
と思ってもいいほどの名家。
日本人の私は、天皇家の千年をゆうに越える歴史を見ているので、
だからどうした?としか最初は思わなかったのだが、
欧州においては、多くの動乱で国が起きては滅び、
民族ごとの大移動を余儀なくされたりと言う歴史がある。
そう言うことを考えれば、ジョルジュマンデル家の歴史も
確かに誇りとなりうる、素晴らしいものだろう。
パリ大学の美学で権威と言われた教授に、
至宝だと言わしめた、オーギュの審美眼は本物で、
彼の才能は、どんな経験のある画商よりも優れている。
そう、誰もが認知するほどの人物だ。
そして、このケンブリッジに留学し、さらに、その見識を深め、
当代一の画商として、第一線に立つ日も間近と言われていた。
そして、没落貴族の末息子・ミシェル。
彼が、ケンブリッジへ来たのは、
パリ大学でオーギュストと出会ったからだ。
勿論、学費から生活費から、何から何まですべて、
オーギュストが丸抱えで負担している。
パリ大学でのオーギュとミシェルの恋物語は、
知る人ぞ知る、有名なラブロマンスで、
最初は、芸術学部の一般科目でもあったデッサンのモデルにと
教授から頼まれたミシェルを、どうやら女の子と間違えて、
一目見て恋に落ちたオーギュストが、皆の面前で、
頼むからヌードモデルをするのは止めて、僕のものになってくれと、
いきなりのボイコット・プロポーズ(?)的な告白で、
授業もなんのその、いきなり掻っ攫って行ったと言う…
まあ、芸術学部始まって以来の、大騒ぎで得た恋人で、
ミシェルにしてみれば、薄手のシャツ一枚に、
ちゃんとズボンを履いていたんだから、
女と間違えたあいつがバカなんだ…なんて言ってたものだ。
奨学金で、演劇の勉強をしていたミシェルは、
思いがけぬパトロンを得ることが出来たのだが、
ヤキモチ妬きなパトロンは、
自分が行くところには必ず連れて行こうとするから、
結局、大学を卒業しても、華やかな舞台ではなく、
ケンブリッジに来る羽目になってしまった。

「いい加減にしろよ、オーギュ。ナルミヤは部外者だろ!」
ミシェルは焦った顔で、自分より20cm以上も背の高い
オーギュの口をふさごうと、さっきからバタバタやっているが、
流石に、体格差と言うものは、そう簡単にどうこうできるもんでもない。
あっさりと、ミシェルの両手首を捕まえて、
その身体を自分の腕の中に愛おしそうに閉じ込めてしまうと、
オーギュストは、面白そうに言った。
「ナルミヤ。知ってるかい?ミシェルの常識では、
恋人たちは必ず一緒に眠らなきゃいけないんだそうだ。」
楽しげにからかい半分にそう言うオーギュストに、
「……その通りじゃないのか?」
私は面倒になって、本から顔を上げないままにそう答えた。
「ほら見ろよー。ナルミヤだってそう言ってるじゃん。」
途端にミシェルが、得意満面で、オーギュを咎め始める。
「オーギュったら、今夜も先に寝てろって、
自分はネットサーフィンで遊んでるくせに…
酷いだろ、ねえナルミヤ。」
全く犬も食わない…
「……ボンニュイだよ。お二人さん。」
私はパタンっと本を閉じた。
そんな楽しかったあの頃の思い出…

いつも笑顔と楽しげな笑い声が溢れていた彼らを、
幸せそうで何よりだと、思ってはいたけれど、
それは、周囲の誰しもがきっと思っていたことなのだろう。
おきゃんで、可愛いミシェルと、
兄のようにそれを見守るオーギュ。
春も、夏も、秋も、冬も…
二人はいつも一緒で、それが当たり前で…
巡りゆく時間の中で、二人の恋は確かに、
深い愛へと変わって行ったのだろう。
二人のパートナーシップは、確かに最初のうちは
金銭面での支援という面は、オーギュが完全に
主導権を握っていたのだろうが、
大学以外の事に関して言えば、才能は、どちらも最たるもので、
オーギュは学生でありながら、美術評論家として名を馳せていたし、
ミシェルは、パリでもそしてケンブリッジやロンドンでも
名のある劇場から、出演依頼を受けるほどの役者でもあった。
ミシェルとて、オーギュがいなくても、
どこかで必ずパトロンはついただろうし、
彼を、そして彼の才能を愛する人だって数限りなくいるのだ。
それでも二人はずっと一緒に暮らしていた。
ミシェルは、オーギュがケンブリッジに留学すると言えば
だったら僕も行くよと、二つ返事で答えたと言うし、
卒業したら、本拠地をパリに戻すと言うことも
暗黙の了解だったらしい。

そして、私が日本に帰る頃。
オーギュストも祖国への帰国を決め、
いよいよ、名実ともにパリ大学の助手としての
研究者への道を歩き始めようとしていた。
そして、漸く彼の最愛のパートナーも、
オペラ座の檜舞台への道が開かれることが決まったらしい。
私たちは、お互いの未来の成功を祈りつつ、
握手をかわし、ケンブリッジを後にして、別れた筈だった。
まさか、その半年後、
あんな再会をするなんて思いもせずに。
To Be Continue.
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君を失うくらいなら、何もかも引き換えにしてもいい、それが愛だろう?
je t'aime ぬばたまの夜を越えて(1)

「秋はメランコリックになるものさ。」
何時も深まりゆく秋の日の一日を繰り返す、“時止めの洋館”。
中庭に降り積もるプラタナスの落ち葉を、
Dollの執事や下男たちが、綺麗にかき集めている。
その傍らのベンチで、スケッチブックに向かっている西園寺と
彼の隣で、そんな彼の描く絵をじっと見つめている彼のラバー・煉翠。
そして彼らの足元には、庭を走りつかれたのか、
寝そべり少し居眠りをしているかのような、大きな犬がいて。
人やDollたちの気配でにぎやかな東館と、対照的に静まり返った西館。
そんな風景を、北館の自室の窓から見ながら、
ふと成宮氏が何かを思い出したように、僕に言った。
「ジル…僕はね、あんまり本当は秋は好きじゃないんだ。」
僕は、ソファに座ったままで、黙ってじっと彼を見つめていた。
「秋の夜長はいろんなことを思い出す…
思い出さなくてもいいことも、思い出したくもないこともね…」
その横顔が、なんだかすごく辛そうな顔に見えて…
僕は思わず右手を伸ばし、口を開きかけた…
でも、こんな時、何て言えばいいんだろう…
解らない…僕はこんな時、
僕の大切な人のために捧げる言葉を、まだ知らない…
そのもどかしさに、グッと歯を食いしばり、また黙り込む。
右の手を差し出したまま固まっている、そんな僕に気付いたのか
ゆっくりと振り返ると、僕を見て微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。ジル。
ちょっと、メランコリックなことを思い出しただけさ…」
そんな成宮氏が、思い出したのはどんなことだったのでしょう
時止めの洋館の住人にはいろんな人がいますが、
今日は、彼の留学時代の学友だった
“碧の眼のオーギュスト”の話をしましょうか。

je t'aime Mon amour いつまでも ぬばたまの夜を越えて(1)
By.神魂未生.
「ナルミヤ。聞いてくれよ。ミシェルったら酷いんだぜ。」
いきなりノックもなしに部屋に入って来たオーギュストは、
それこそ挨拶もなしに、苦笑交じりにそう私に訴え始めた。
彼の背中には、そんな彼の口塞ごうと、彼の恋人が追いすがっている。
小柄で、コケティッシュなどこからどう見ても美少年、というその風体は、
当時二十五歳だった私が、二十歳前の子供に周囲から見られる以上に、
年齢不詳だが、驚くべきことに実は二十六歳で、私よりも年上だ。
その美少年、いや美青年の名は、ミシェル・ポールドゥメール。
そして、彼の恋人である美丈夫の名は、オーギュスト・ジョルジュマンデル。
共に、このケンブリッジでは珍しくない、フランスからの留学生だ。
ことに、このイーデルボック寮は、大学院生ばかりが住まう寮で、
ある程度の階層以上のものが住まう、いわば特権階級用の寮。
つまりそれなりのものばかりが住んでいるハイソな寮だと言う訳だ。
さもありなん。なんせ、彼の実家は、格が違う。
フランスでも数少ない14世紀から続く貴族の家系。
ジョルジュマンデル家の一族は、代々金髪碧眼の一族であり、
それなりの家系のものと、婚姻関係を築いてきたためか、
欧州中の貴族と何らかの関わりがあった家系…
と思ってもいいほどの名家。
日本人の私は、天皇家の千年をゆうに越える歴史を見ているので、
だからどうした?としか最初は思わなかったのだが、
欧州においては、多くの動乱で国が起きては滅び、
民族ごとの大移動を余儀なくされたりと言う歴史がある。
そう言うことを考えれば、ジョルジュマンデル家の歴史も
確かに誇りとなりうる、素晴らしいものだろう。
パリ大学の美学で権威と言われた教授に、
至宝だと言わしめた、オーギュの審美眼は本物で、
彼の才能は、どんな経験のある画商よりも優れている。
そう、誰もが認知するほどの人物だ。
そして、このケンブリッジに留学し、さらに、その見識を深め、
当代一の画商として、第一線に立つ日も間近と言われていた。
そして、没落貴族の末息子・ミシェル。
彼が、ケンブリッジへ来たのは、
パリ大学でオーギュストと出会ったからだ。
勿論、学費から生活費から、何から何まですべて、
オーギュストが丸抱えで負担している。
パリ大学でのオーギュとミシェルの恋物語は、
知る人ぞ知る、有名なラブロマンスで、
最初は、芸術学部の一般科目でもあったデッサンのモデルにと
教授から頼まれたミシェルを、どうやら女の子と間違えて、
一目見て恋に落ちたオーギュストが、皆の面前で、
頼むからヌードモデルをするのは止めて、僕のものになってくれと、
いきなりのボイコット・プロポーズ(?)的な告白で、
授業もなんのその、いきなり掻っ攫って行ったと言う…
まあ、芸術学部始まって以来の、大騒ぎで得た恋人で、
ミシェルにしてみれば、薄手のシャツ一枚に、
ちゃんとズボンを履いていたんだから、
女と間違えたあいつがバカなんだ…なんて言ってたものだ。
奨学金で、演劇の勉強をしていたミシェルは、
思いがけぬパトロンを得ることが出来たのだが、
ヤキモチ妬きなパトロンは、
自分が行くところには必ず連れて行こうとするから、
結局、大学を卒業しても、華やかな舞台ではなく、
ケンブリッジに来る羽目になってしまった。

「いい加減にしろよ、オーギュ。ナルミヤは部外者だろ!」
ミシェルは焦った顔で、自分より20cm以上も背の高い
オーギュの口をふさごうと、さっきからバタバタやっているが、
流石に、体格差と言うものは、そう簡単にどうこうできるもんでもない。
あっさりと、ミシェルの両手首を捕まえて、
その身体を自分の腕の中に愛おしそうに閉じ込めてしまうと、
オーギュストは、面白そうに言った。
「ナルミヤ。知ってるかい?ミシェルの常識では、
恋人たちは必ず一緒に眠らなきゃいけないんだそうだ。」
楽しげにからかい半分にそう言うオーギュストに、
「……その通りじゃないのか?」
私は面倒になって、本から顔を上げないままにそう答えた。
「ほら見ろよー。ナルミヤだってそう言ってるじゃん。」
途端にミシェルが、得意満面で、オーギュを咎め始める。
「オーギュったら、今夜も先に寝てろって、
自分はネットサーフィンで遊んでるくせに…
酷いだろ、ねえナルミヤ。」
全く犬も食わない…
「……ボンニュイだよ。お二人さん。」
私はパタンっと本を閉じた。
そんな楽しかったあの頃の思い出…

いつも笑顔と楽しげな笑い声が溢れていた彼らを、
幸せそうで何よりだと、思ってはいたけれど、
それは、周囲の誰しもがきっと思っていたことなのだろう。
おきゃんで、可愛いミシェルと、
兄のようにそれを見守るオーギュ。
春も、夏も、秋も、冬も…
二人はいつも一緒で、それが当たり前で…
巡りゆく時間の中で、二人の恋は確かに、
深い愛へと変わって行ったのだろう。
二人のパートナーシップは、確かに最初のうちは
金銭面での支援という面は、オーギュが完全に
主導権を握っていたのだろうが、
大学以外の事に関して言えば、才能は、どちらも最たるもので、
オーギュは学生でありながら、美術評論家として名を馳せていたし、
ミシェルは、パリでもそしてケンブリッジやロンドンでも
名のある劇場から、出演依頼を受けるほどの役者でもあった。
ミシェルとて、オーギュがいなくても、
どこかで必ずパトロンはついただろうし、
彼を、そして彼の才能を愛する人だって数限りなくいるのだ。
それでも二人はずっと一緒に暮らしていた。
ミシェルは、オーギュがケンブリッジに留学すると言えば
だったら僕も行くよと、二つ返事で答えたと言うし、
卒業したら、本拠地をパリに戻すと言うことも
暗黙の了解だったらしい。

そして、私が日本に帰る頃。
オーギュストも祖国への帰国を決め、
いよいよ、名実ともにパリ大学の助手としての
研究者への道を歩き始めようとしていた。
そして、漸く彼の最愛のパートナーも、
オペラ座の檜舞台への道が開かれることが決まったらしい。
私たちは、お互いの未来の成功を祈りつつ、
握手をかわし、ケンブリッジを後にして、別れた筈だった。
まさか、その半年後、
あんな再会をするなんて思いもせずに。
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