ヨハン

ラクチェ
城下をそぞろ歩いていたヨハンは、城門前にとても美しい人影を見つけ、そばによっていく。
「やァ、ラクチェ。キミの様な誰も放っておかない美しい人が1人で一体何をしているんだい?」
「あ、ヨハン…もうあなたは」
ヨハンの、彼特有の言い回しにラクチェは笑顔を見せる。
「スカサハを待ってるのよ。あのバカ、偵察に出て行ったっきりなかなか戻ってこないんだもの。またどこかでドジやってるのよ。わが兄ながら情けないわ」
「そんな事を言ってはいけないよ。彼は慎重なだけなんだから」
「そうかしら」
「私はそう見えるけどね」
「…あ、戻って来た!!」
視線の先に見慣れた人影を見つけ、ラクチェはその人影に向かって大きく手を振る。
その人影―スカサハ―はラクチェに気付き、軽く手を上げて答える。
「本当に君達は仲が良いな」
「あら、妬いてるの?」
「少し、ね。…さて、仲の良い兄妹の邪魔するワケにはいかないな。失礼するよ、兄思いの優しい麗しの人」
「もう…」
そう言って、ヨハンはスカサハにも1礼をしてまたフラッと歩いて行った。
「ヨハンと何話してたんだ?」
「ここで何してるんだって聞かれただけよ。だからアンタを待ってるって言っただけ」
「ヨハンのヤツも付き合いイイねー。マメだし」
「あ、ティニーが探してたわよ。それで私ここで」
「え!!」
ラクチェのセリフを聞き終わる前に、スカサハは帰って来た時よりもはるかに速いスピードで駆けて行った。
「…ヤレヤレだわ」
分かりやす過ぎる兄の行動にラクチェはやれやれ…と肩を竦めた。
次の日、ラクチェはヨハンの部屋を訪ねたのだが。
「え? ヨハン、いないの?」
「この辺…グランベルの、特にドズル周辺の地理は彼が我々の中で1番詳しいからね。セリス様が特に彼に頼みたいと、偵察に出てもらったんだ。ドズルの西は森が深い所があるから、兵を伏せておくのならどの辺りか彼なら分かるだろうって」
進軍中、ヨハンと同じ部屋のデルムッドの答えにラクチェはいささかガックリした様で、ファバルも一緒だと言う次のデルムッドの言葉は、ラクチェには聞こえていない様だった。
「そう…偵察…ね……」
そう、ラクチェは呟いた。
* * *
その日ラクチェはずっと城門の前でヨハンの帰りを待ち続けていた。
昨日スカサハを待っていたように。
ただその表情は昨日よりひどく…落ち着きが、ない。
(ヨハン…)
だから、彼方に愛馬に跨った彼(+ファバル)の姿を見つけた時。
…彼女はその場にへたり込んでしまったのだった。
その様子を遠目に見ていたヨハンは馬を降りて、彼女のそばに寄り、
「おお、ラクチェ? 私の帰りを待っていたのかい?」
といて、その頬をなでた。
ヨハンの彼特有の言い回しにラクチェは答えなかった。
……否。
答えれなかった。
「…? ラクチェ?」
「…だったんだから」
バッと。
顔をあげたラクチェの両目は涙に濡れていて。
「心配…だったんだからっ…!!」
「…君は優しいね、ラクチェ」
「お願いだから…心配させないで……」
「分かった。約束しよう。君のその涙に誓って…」
そう言ってヨハンはファバルが1連の流れをジィ〜〜〜ッと見ているにもかかわらず(ファバルは今回1人身なので目の毒…)、ラクチェのその涙に濡れた右の瞼に口づけを落とした。

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