セティ

ラクチェ
「え、そうなの?」
「うん、明日がお兄ちゃんの誕生日なの。だからさ、ね?」
ミレトス海峡越えの前夜。
ラクチェはそのひ同じ部屋で過ごす事になったフィーにセティの誕生日が明日である事を知らされた。
…当然、今の今まで知らなかったのだから、何も用意はしていない。
「最近お兄ちゃん元気ないから、何かしてあげようとは思うんだけどね」
「ん〜……」
「ラクチェは? ラクチェは何かお兄ちゃんにしてあげるの?」
最近お兄ちゃんと仲イイよね〜…と、フィーは笑顔になる。
最も、そういうフィーはここの所そのラクチェの双子の兄・スカサハと一緒にいる事がことのほか多いようだが。
「ねェ、お兄ちゃんを元気づけてやってくれない?」
そうフィーに微笑まれては、断る事も出来ない。ましてや、その頼み事はラクチェの大切な人の事で。
その夜のラクチェは、恋人のセティへの贈り物を考えて、なかなか寝つけない夜を過ごしたのだった。
* * *
翌日。
セティはいつも通りの時刻に起床し、いつも通りに顔を洗っていた。
今日は天気がいい。遠くに見える海峡も波が穏やかだ。
(これなら今日は見通しが良すぎて進軍は無理だな)
…などと、いい天気には似合わない考えを1瞬張り巡らし、そしてそれを打ち消そうと頭を横に2度…振った。
(何を甘えた事を言っているんだ、僕は)
顔を洗い終え、しばらくその朝の光をボーっとうけていると、けたたましい声が飛んできた。
「お兄ちゃん!! セティお兄ちゃん!!」
「フィー、まだ早いんだ。もう少し静かにしなさい」
「んもーそういうカタイ事言いっこなしよ。…ホラ!!」
手渡された袋には、焼きたてのクッキーがギッシリと詰まっていた。
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」
「そうか、今日はそんな日だったね。ありがとう、フィー」
「後でラクチェも何かくれるかもよ?」
「え?」
「昨日お兄ちゃんの誕生日が今日だって教えたら、何か色々考えてたみたいだから」
またこの妹は余計な事を…と思いつつ、セティは顔がにやけるのを止める事が出来なかった。
「お兄ちゃん…ラクチェの事が本当に好きなのは良〜く分かったから、その顔を彼女に見せないでね……」
* * *
「あ、セティ」
「やあラクチェ」
前情報でラクチェが何かを準備していると聞いてはいたものの、それをつとめて表情には出さない様にセティは爽やかな笑顔を彼女に向けた。
「あ、セティ今日はお誕生日なんですってね」
「ん? …そう言えば、そうかそんな日だったかな?」
こういう時ポーカーフェイスが得意なのはいい物だと、セティは内心ほくそ笑んでいた。
「だからセティに渡したい物があるの」
「そんな、気を使わなくても…」
とか言いつつ嬉しさをセティは抑える事は出来ない。
ラクチェは、その胸元から封筒を1つ取り出した。
「はい、セティ。お誕生日おめでとう」
「…? ラクチェ? これは……」
「開けてみて?」
いぶかしむセティをよそに、ラクチェはニコニコ微笑んでいる。
セティは持っていたナイフで丁寧に封を開いた。
中には紙が1枚。しかも、たった1言が書かれただけの。
「・・・・・・」
「色々考えたんだけど、やっぱりセティが1番喜ぶのはこれかなって」
「・・・・・・」
「あら、泣くほど嬉しかったの?」
喜んでもらえて嬉しい〜とラクチェは大輪の花の様に笑った。
「後で何か美味しいもの買ってくるから、それで2人でお祝いしようね。それじゃ!!」
たたたっと、ラクチェは走り去っていった。
『徳 政 令』と書かれた紙を持ったまま風化しそうなセティを残して。

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