『赤い夕日』
放送日:1985年4月21日 TBS 東芝日曜劇場
演出:坂崎 彰 脚本:田井洋子(原作:藤沢周平)
呉服商若狭屋の主人・新太郎(井川比佐志)と女房・おもん(池内淳子)の雨降って地固まるような、鶴亀鶴亀のお話。
発端は、雨ではなく斧次郎(田村高廣)の使いだといっておもんを訪ねてきた男。斧次郎は半年前から病気であと2、3日の命、一目おもんに会いたいと言ってるという。斧次郎はおもんの養父だけれど、そのことは誰にも秘密にしておもんは若狭屋に嫁いできたのです。木戸の外でヒソヒソそんな話をしているのを、井戸端で水を飲みながら七蔵(本田博太郎)が聞き耳を立てています。七蔵、こりゃ訳ありなヤツだ!とても短いカットですが、そういう雰囲気がいっぱいです。
バクチ打ちの親がいたんじゃ、カタギのところへは嫁にいけない。自分のことは誰にも秘密にして若狭屋に嫁ぐよう。嫁いだら橋=永代橋を渡ってこっちにもどって来てはいけない。
そう斧次郎がおもんに言いつける回想シーンでは、おもん役は和由布子。田村高廣、どこからどこまでも時代劇。
男を帰して、思いに沈みながら木戸を入ってくるおもん。それを物陰から見て、ついと身を翻して姿を消す七蔵・・・相当イワクありげ。
義妹・おしず(香川三千)の嫁入りの支度をしながらも、斧次郎のことが気にかかってしょうがないおもん。結局、次の日、おもんは意を決して斧次郎を訪ねて行くことにします。で、橋を渡りかけたとき、七蔵登場。店では人目があるからこっそりつけて来た。で、何を言うかと思ったら、ダンナ・新太郎にはオンナがいると告げ口。なんじゃこりゃ?おもんもそう思ったに違いなく、七蔵を打っちゃって行こうとすると、七蔵はおもんの袖をとらえる。そして、心配だから深川へお供します。妙に物やわらかな物腰物言い・・・お店者がおかみさんに口きいているのだから当然といえば当然なのですが。
七蔵をとにかく留まらせて、おもんが斧次郎の家に行ってみると、斧次郎は2年前に病死し仙助(綿引勝彦)と子分達。斧次郎の借金を返すため、おもんを人質にして若狭屋から金百両を引き出すのだと。斧次郎は死ぬまでおもんの居所を明かさなかったというので、おもんが若狭屋の女房におさまってることを仙助に教えたのは誰だろうと不審顔のおもん。仙助の「連れてこい」の声でおもんの前に引き出されたのは七蔵。申し訳なさに突っ伏す姿は・・・最近はあまり見かけないけれど、おなじみのような気がする?それともデジャヴ?
この七蔵がですね、夜更けに軟禁されてるおもんのところにやってくる。喜六親分におもんのことを喋ったのを謝るかと思ったら、おもんの「お前のせいだけじゃないよ」の言葉を聞くや豹変、一緒に逃げてくださいだって。仙助は凶状持ちで・・・とか何とか、またまた告げ口して、「わたしは・・・わたしは」と口ごもっていたかと思うといきなり「おかみさんが好きでお店に奉公にあがったんです」。私も命がけなどと口走って、遠くへ一緒に逃げようとおもんに飛びつくんで、おもんは声をあげて人を呼ぶ。仙助以下駆けつけて、七蔵袋叩き。雨戸ごと庭に転げ出た七蔵は、そこらの竹箒振り回して・・・後はどうなったんでしょうね?とにかく、本田博太郎ならこういうシーンが無くっちゃというところでしょう。
結局、おもんの亭主・新太郎が歌舞伎で実役というような大した人物でメデタシメデタシで終るのですが、七蔵は、新太郎にもおもんの素性を告げ口してたんですね。それでおもんが離縁されるかと。ただ新太郎は、七蔵がおもんが好きなのを承知で手元に置いて使い、おもんには思いやりから斧次郎のことは何も言わなかった。永代橋の上の新太郎・おもんの様子を葦簀の陰から出てきた七蔵が見てコソコソ姿を消します。その情けない顔。おもんは七蔵に気がついたようだけれど、新太郎は知らない。でも、七蔵はクビだな、きっと。原作では、この事件前に七蔵はすでにクビになってたっけ?
5歳のおもんを演じている仙田麻子が滅法うまいです。5歳のおもんと斧次郎のシーンが、たぶん、昔ながらの時代劇という味なんでしょうね。

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