日ごろ昵懇にしている酒屋のオヤジから今年の新酒粕を頂戴した。昨今は日本酒の愛飲家が少なくなっていて、焼酎にその生産量が凌駕されてしまって久しいと聞く。生産量が少なくなって当然のように酒粕も、年々貴重なものになり価格も年々上がっているらしい。オヤジから灘の「白鷹」と伏見の「桃の滴」の新粕を比べるように値うちを付けられて渡された。
「わが衣(きぬ)にふしみの桃のしずくせよ」と松尾芭蕉が名付けた「桃の滴」の吟醸酒の粕と御料酒と呼ばれる「白鷹」の山田錦の吟醸酒の粕と垂涎(すいぜん)の的になる逸品を賞味せよという慮りである。
御料酒とはと、「白鷹」のHPを覘くと、
「私たちが朝晩の食事をとるように、伊勢の神々にも古くから朝晩の食事が供えられてきました。伊勢神宮ではこれを日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけのまつり)と呼び、伊勢の大神の御饌(みけ)は、豊受大神宮(外宮(げぐう))の御饌殿(みけでん)という御殿で供されます。大御神にそなえる大御饌(おおみけ)は、鯛、昆布、御飯、鰹節、野菜などがあり、専用の土器(かわらけ)には酒が入っています。白鷹は 、全国数ある酒蔵の中よりただ一つ、この神宮御料酒に選 ばれ、以来一日も欠かすことなく献上をつづけ、神宮の神々 に供えられています。」とある。
この酒粕を利用した一つに「粕汁(かすじる)」がある。各家庭それぞれに拘りがあるのだが、味噌汁に酒の板粕をほぐして入れたものをいうが、本来の粕汁とは塩鮭、鰤、鱒に野菜類を加えて中火で煮て、最後に酒粕をいれて食べるという方法が一例としてあるのだが、寒さ厳しき日の冬の身を温めてくれる最適のご馳走であるということは昔も今も変わりがないようだ。
河豚(ふぐ)汁、鯨(くじら)汁、鴨(かも)汁、納豆(なっとう)汁、三平(三平」汁、薩摩(さつま)汁、葱(ねぎ)汁、蕪(かぶら)汁、干菜(ほしな)汁、卷織(けんちん)汁、闇(やみ)汁、塩汁(しょっつる)などわが国には各地各様、多種多様な・・・汁の類の冬の保温食の嗜み方がある。
「桃の滴」の酒粕が夕べの食膳に上っていた。
「石枯れて水しぼめるや冬もなし」と冬の厳しい寒さを詠んだ芭蕉の句を噛みしめながら粕汁を啜っている。
―今日のわが愛誦短歌
・
ぶち切りて食めよといへり一塊の
魚体の重み雪に曳くとき 馬場あき子
―今日のわが駄句
・粕汁や過去現在と未来まで
粕汁にぶち斬る鮭の肋かな 石塚友二
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