事はじめ━。それは、新しい年を迎えるための手始めであるとともに、一年の締めくくりをするための事はじめでもあるとされている。
12月13日がその事はじめの日とされていて、この日から、正月の行事についての手をそめる。いろいろのことをはじめるという意味であり、歳暮御祝儀なども、この日から配りはじめるのが慣例であった。「歳暮御祝儀」とは、忘れかけたことばであり、むかしは熨斗紙にこの文字を書き、その下に贈り主の名前が書かれていたが、今は「御歳暮」と省略された不粋な文字で片づけられている。
届けられた夕刊に、
「花街あでやか事始め」の見出しで、京都の花街で13日、「事始め」があったとあり、ひな壇のような棚の上に飾りつけられた鏡餅の前で、京舞井上流5世家元井上八千代に挨拶する舞妓らの写真が例年のように載せられていた。
例えば、大阪船場では、今を昔のこと、
「事はじめ、おめでとうさんで・・・」
「どうぞ、よい年をお迎えなはりますよう・・・」
「本年は、いろいろありがとうさんで・・・」
という挨拶が交わされていたのであろうか、どこかで聞いた船場で育った老女の会話が耳の底にある。
『古今集』にある
「年のうちに春は来にけりこの年を去年(こぞ)とやいはん今年とやいはん」の心境になったのであろう。そして、この日から、年の瀬のあわただしさを感じずにはいられなくなるのである。今もこの日を意識してか、御歳暮を携えた年末の挨拶を受けた。茶菓の接待で尿意が絶えないというのは、年末の冷え込みがきつい証拠である。
今年も暮れていくのだという侘しさが伝わってくる。
―今日のわが愛誦俳句
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京なれやまして祇園の事始 水野白川
―今日のわが駄作詠草
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冬の空暗きところにひかりあり
今日くれないの花咲きにける

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