薄日が射す日がもどってきた。相変わらず免税店にやって来る中国人の集団に引っ搔きまわされている街である。日野草城の句に
「春の雲ながめてをればうごきけり」というのがある。薄い碧色の春の空に白い雲がゆっくり動いて行くのが見える。その光景を草城は捉えたのだろう。無色である空気が碧いはずがない。それが碧い色に見えるのは、日光のなかの碧い色の光りが空気の分子や細い塵に散乱されて人目に入るからであるという薀蓄を聞かせてくれた絵かきがあった。春夏秋冬さまざまに変化して行く雲の動きを絵に描いていたが先年物故してしまった。彼が好んで描いたのは春の雲であった。春らしい天候に出合うことがなかった今年の春も終ろうとしている。
ゆっくりゆっくり流れて行く雲を眺めていると、中国語の甲高いことばのラッシュに翻弄されている憂鬱を忘れてしまう。
「空は本それをめくらむためにのみ雲雀もにがき心を通る」
寺山修司のギャグにこころが安らぐ思いになった。
・きょうのわが駄作詠草
春の雲ビルを過ぎりて消えて行くあとに青空広がりにける

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