一年中で一番短い日である冬至を迎えている。冬至は立冬と立春のちょうど真ん中にあたるのだが、実際、寒さのきびしくなってくるころでもあるので、「冬至冬なか冬はじめ」とも言われている。この日を境にまた日がながくなってくるところから一陽来復を祝う風習もある。南瓜を食べ、粥をすすり、柚子風呂にひたるというのは、冬至は生命力の最も減じるときという古くからの暦の上での言い伝え、信仰によるものとされるが、面白い民間伝承に庶民の平和な願いを見ることができる。柚子風呂に入り浮いている柚子を眺めながら、ふと獅子文六の柚子の香りを称えた呟きを噛み締めている。「小芋の煮付けに、柚子の香を欠いたら、新秋の味は、半減するだろう。また、焼き松茸の場合も、同じことがいえる。もっとも、松茸は、中秋に食うべきもので、その頃は、柚子も、青蜜柑ほどの大きさに育つが、新秋の柚子は、青く、小さく、堅く、果実ともいえぬほど、幼げなものだが、その香気は、まったく鮮烈である。あれほど、効果があれば、”走りもの食い”ともいえず、正しい食べ方なのだろう。秋の柚子と、春の木の芽は、日本の香味料として、双絶といえる。その添加によって、季節の食べ物が、どれだけ魅力をよびさますか知れない。小芋や、焼き松茸に限らず、柚子の薬味の用法は、秋に多い」と。
「湯げかをる柚子湯にしづみ萎(しな)びたるからだなづれば母のおもほゆ」窪田空穂の孝心を思い浮かべているところである。
・きょうのわが駄作詠草
短き日暮れてなつかし柚子の香の沢山買いし部屋にこもりて

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