寒い凍るような冬の日になった昨晩、かってこの街にある大企業に勤め、それぞれが独立して会社を立ち上げ成功した連中がどやどやと10人ばかりやって来た。それぞれが年老いたすがたにはなっているが、眼光人を射る目の輝きは、死線をくぐり抜けて戦地から帰還した兵士のそれを感じさせた。突然どやどやとやってきたのだがどやどやと去って行ったのは当然であるのだが、出した焼酎一升をあっという間に空けてあっという間に消えた見事さに感服してしまった。聞けば、年に一度の新年の集いの帰りとのこと。そのうちの3人は元の会社を数倍しのぐ会社の経営者だったが、今は後事を託して、悠々自適という。戯れに、3人がいっしょになって新会社を創ってはと呼びかけると、それぞれが微笑んでいた。
一夜が明けて、心配していた大雪をもたらす雲も大阪をはずして、南西の空に、満月を残し、煌々と射す月光が通天閣を照らす寒中の月夜であった。氷輪を思わす月が冷厳と中天に凍り付いていた。それは人間の世界とは無縁のように寂然と照り輝いていた。
「寒月やわれ白面の反逆者」と詠んだ原石鼎の句を復誦して、志を抱き新世界に三三五五に散って行ったころの、昨晩の各自の面貌を想い出して噛み締めているところである。
・きょうのわが駄作詠草
わが過ぎし日を只管にあがなへと降らざる雪に夜は明けている

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