暑さ寒さも彼岸までとの言い伝えがあるが、秋の彼岸になってめっきり冷え込みを感じるようになった。特に朝方はくしゃみを催すこともある。そんな季節になって来た。
秋風が立つということばがある。一般的には、夫婦や異性の関係で一方がそっけなくなることを言うのだが、いわゆる、「秋」を「飽き」にかけたことばである。平安時代、絶世の美女と讃えられた小野小町に、
「秋風にあふたのみこそかなしけれわが身むなしくなりぬと思へば」という歌がある。田の実(稲)は秋風に遇ってうまく実らずになってしまうし、わたしは飽き風に会っては人に忘れられて、駄目になってしまった。という意味で、いよいよその寂しさを感じている。ということなのであろうが、小野小町をしてかかる歌を詠ましめたのだから相手はどんな好男子かを想像したりもする秋風の立つ候になっている。
「秋分のおはぎを食へば悲しかりけりわが仏なべて満州の土」という山本友一の一時代前の歌を想い出して、よく聞かされた満州での苦労話も語る人はもうない。ただ、おはぎを食べながら秋風が立ってあの夫婦は離婚するのではないかの話題が飛び出している。
・きょうのわが駄作詠草
老猫の洟を詰まらす音あわれ秋の深まる雨降りをりて

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