定期検診で罹り付けの診療所に出掛ける。例により、血圧、心音、脈拍の検査があり委細変わらずのお墨付きが出る。次回には年二回する血液検査をすると言われ、お墨付きがつけられたばかりで腑に落ちないのだが、医師の権威に頷いてしまった。健康保険を掛けていなかったら4900円の診察料なのだが1割の490円の自己負担で検診が終った。そして薬局での薬代が2320円。要するに保険を掛けていなければ1回につき28100円の出費で、昔なら辛抱するだけ辛抱していた時代を知っている者には隔世の感があることを覚える。帰りの道筋にある理容所に来客がいなかったので早速、調髪する。変わり行く街の様子、人の動きを彼が蒐集した情報が披瀝されて行くのだが、「敬老の日」に配られる饅頭に
いちゃもんをつけた蒙昧の輩があり500円の現金が配られたという。慶事には紅白のこれとされる薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)とは、すりおろした薯蕷(ナガイモ)の粘りを利用して米粉(薯蕷粉、上新粉)を練り上げ、その生地で餡等を包んでしっとりと蒸し上げた饅頭。使われる薯蕷にはつくね芋(京都地方)などがある。茶席で使われる主菓子(おもがし)のひとつだとかで、この饅頭の上品さを愛でていた母親の顔を思い出した。無知というものはお目出度いもので、500円でこころに残る如何なる佳品があるのかと貧弱な発想が悔しい。例によりお釣りはもらわずに少し湿気の高い街に出て帰路に着いた。
・きょうのわが駄作詠草
秋灯を消せばしづかに月の名がかわり見知らぬ人ばかりにて

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