穏やかな秋の日和ではあるが、天気予報では今晩から崩れてくるとある。いよいよ今年の紅葉も終り、師走が駆け足でやって来る。あとひと月あまりとなった日めくりの薄さを見ながら、その下にかけられた来年の暦の分厚さを見て、日々堪えられるのかと弱気の虫が鳴き出しそうになるのもこの時節の感傷でもある。
「菊焚きし手の昂りのさりながらはや大切のものもかへらじ」と詠んだ馬場あき子の歌を思う光景に出遭った。団地の庭に溜まった落葉を掃き集めて焚いている老女に話しかけた。「寂しさを覚えませんか」と。顔見知りなればこそ、唐突にこの不躾な問いかけができるのだろう。「毎年この季節になると、どなたも構う人がいないので、秋の仕舞いをしているのですが、遣るべのない寂寥感に襲われるのだが年に負けてはならぬという励みにもなっています」という美しい日本語が返ってきた。冬の日の短さを短日と呼ぶ。午後になると、あっという間に陽が傾いてくる。立ち話する暇もせわしく夕暮れが迫っているようだ。人の歩みにその慌しさを感じたので、「お元気で、」と分かれた。
・きょうのわが駄作詠草
散りはてし木の葉が空に見当たらず子を呼ぶ声の夕暮れている

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