朝、冬にしては明るく澄み渡った空模様であった。田辺市の南方熊楠顕彰館で来年の干支を意識してか「鶏に関する民俗と伝説」についての展示展が今年は今日までなので出掛けることになった。南方熊楠は、和歌山市に生まれ、東大予備門中退後米英に遊学。帰国後の明治37年(1904)から田辺に住み、内外の学者と交流しつつ、生物学、人文科学等多方面に渡り研究を続け、在野の碩学として注目された。特に粘菌(変形菌)・菌類の研究、民俗学・宗教学に特異の足跡を記し、現在においてもなおそれぞれの分野に影響を及ぼし続けている。
大正5年以来ここに住み、庭を研究園としていた。例えば、今も残る柿の木に粘菌の新種「ミナカテラ・ロンギフィラ」を発見したことで知られる。それまで粘菌は腐朽した木について成熟するものとされていたが、彼は生きた木にもつく粘菌があることに着目する。
また安藤みかんという天然記念物に指定されたみかんの木が邸内にあり、たわわに実をつけている。カラスが突(つつ)くのか枝に成ったまま食べられた跡形があった。カラスが食べるのだからきっと美味しかろうと、妻は戯れに落ちた無傷の果実を園丁に申し入れてゲットする。聞けば熊楠もこのみかんを好物にしていたとのこと。帰途、寄り道した紀州蜜柑の卸市場に立寄って「安藤みかん」がないかと訊ねたら存じないとか。因みに、熊楠邸の安藤みかんを示したら首を傾げられたので、半分進呈するからと差し出した。当然、有田みかんに慣れている者にはすっぱさが勝っていると評価した。妻は絶品なりとの断を下した。
・きょうのわが駄作詠草
そそくさと冬の風吹く街を行く海近きかな潮の香りして

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