五月晴れの好天に恵まれている。家族が出不精を嗾けるように強引に車に押し込む。近場を条件に下宿の孫も付き合ってくれる。西国街道を歩くのではなく車でという、極めて
づぼらな遠足になってしまった。まずは、ご神体が甑岩を霊岩とする西宮市の「越木岩神社」に遣って来た。
甑(こしき)とは、鹿児島県の甑島(こしきじま)から来阪している知人に訊いたことを想い出した。古代中国を発祥とする米などを蒸すための土器であるとのこと。需とも言い、竹や木などで造られた同目的のものは一般に蒸籠と呼称されると説明してくれた。全体に注連縄を張り廻らされていて、巨大な岩石が信仰の対象にされていた。かって訪れた明日香の益田の岩船。播州の石の宝殿にも匹敵する巨石が此処にもあった。社務所で訊けば、
『こしきいわのいかり』という西宮ふるさと民話に、この甑岩に目をつけた豊臣秀吉が大坂築城の石にしようと石工たちに命じて割らせようとしたところ、今にも割れんとする岩間よりニワトリの鳴き声がして真っ白な煙が立ち上って、その霊気に煽られて石工たちは岩もろとも転げ落ち倒れ臥してしまい、どうしても岩を運び出せなかったとの言い伝えがあるという。
この話を訊いていたら、毎年秋に行われる、越木岩泣き相撲で、女の孫を連れて来たら、その恐ろしい話を訊いて泣き出し優勝するのではとふと思ったりもした。
まだ杖を使いて上れぬ道でなく巨岩の霊気に励まされいて

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