昵懇にしている知人が、検査入院して来ると言って、三ヶ月近くなっている。院内で何らかの菌の感染で容体に変化が出て病状が長引いているとか。高栄養剤(高カロリー輸液)の投与で延命措置が施されている状態であるとか。病室への見舞いには防菌衣、手袋、マスクの使用が義務付けられているという物々しさで、患者との面会が出来る状態になる。点滴の調整に現れた看護士には、われわれと同じ措置をしなくてもよいのかと、余計なことを考えたりする。患者が元気だった平生は、手品で人々を愉しませてくれたことを想い出して、
「医学とまじないとがちがうのは医学には誇りがあることだ。人間の苦しみは人間の力で治すしかほかはない。」と、評論家と医者の松田道雄(1908−98)のことばに、元気だったころの患者のすがたを再見できる日を願って病院を後にする。しかし、20kgもこの間に減量してしまった体力の衰えを懸念した夫人の口から、栄養失調になって亡くなるのではのことばに、その深刻さを同情する。
ひとつ違いの同年輩であるので、気になるのだが、淋しいことに変わりはない。
右に行けひだりに行けと病院の廊下の奥は無菌の部屋か

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