きょうの日が昏れ残る冬のわが街である。ビルが建て込んでいるなかに、従来からの高さを凌駕する超高層階のビルが建ち出した。その高階の壁面にはまだ夕日が当たっていて下の車道と対比すれば面白い。車道を走っている車にはヘッドライトが灯されている。そして、その歩道に面した植え込みにある八手(やつで)の花が夕日を届かぬままに多数の白い花をかたまって咲かせている。朝から来客が途絶えず、その応対に忙しく散歩どころではない状態を気遣って妻が歩くことを急きたててくれる。歩行計を見ると50歩にも満たぬ為体(ていたらく)ぶり。そんな街を歩きながら、ふとあそこの喫茶店にいつも来ている知り合いがいると妻が囁いた。差し掛かったところ店内からの見知らぬ人の手招きにあった。知らぬ振りをして店の前を通り過ぎたところで妻に持ち合わせがないので1000円を無心される。コーヒを喫して来るとかと云って別れる。2000歩近い散策であった。
聞けば恐ろしきかな身の上をかの地売られてビル建てられている

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