終日雨が降り続いていて、月一度最終週の月曜日にある商店街の安全街づくりの啓発キャンペーンも中止になっている。俳聖芭蕉は、
「春雨や蓬(よもぎ)をのばす草の道」とこの時節に降る雨の情趣を感じさせている句を詠んでいる。更には、江戸期の端唄に、
「春雨にしっぽり濡れる鶯(うぐいす)の 羽風にかをる梅が香の 花に戯れ、しをらしや 小鳥でさへも 一筋に 塒(ねぐら)定めん木は一つ わたしゃ鶯、主(ぬし)は梅 やがて気儘(きまま)身儘(みまま)になるならばサア 鶯宿梅(おうしゅくばい)じゃないかいな サッサどうでもよいわいな」と冬から春に変わるときの凪に、細い雨滴となって、シトシトと降り続く雨の艶っぽい風情を若い日に連れて行かれたスタンドの女将が三味線の弾き唄いに聴かせてくれたものである。また、唄い終ったあとに若い者に気を使ってくれたのだろう、この
『春雨』は、木の芽や草の芽に息吹きを与え、花を咲かせる雨でもあると教えてくれたものだ。そんな雨がシトシトと降るなかを、いそいそと歩いて行くマスクをした若い二人連れを見ていながら
『春雨』を唄ってくれた女将を想い出している。
梅と兵隊歌いつ泪たたえいる人もありしや春雨の夜

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