じろじろと店内を覗いている人がある。徐に入って来て誰かと判るかと云う。私よりは年上で、卒寿に近い老人と見受ける。その昔、「ほこり叩き」を売りに来ていた男である。定期的に陳列された棚の上の商品の「ほこり」を鳥の毛を棒の先につけて叩いてほこりを除去するはたき箒を売りに来ていたとか。想い出せばお互いに積み重ねた年齢を観察し合い、その仕事で生計を立てていた貧しい日本の存在を話している。厭な客が来ると、その「ほこり叩き」をパタパタさせ「ほこり」を立たせてほこりとともに退散させることも行ったものだ。その男は奈良の郡山(こおりやま)辺りの寒村からやって来たようだ。そんなことどもを話していると今はむかしのことが懐かしい。
わが足の指の爪切る痛さあり昔語りの時の短かさ


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