北陸から東北南部にかけて日本を横切るように停滞する前線に向かって、上空では寒気が南下。地上付近では日本海側からの暖かく湿った空気が、前線に向かって吹き続けた。この均衡が雨雲を作り出す要因になっているのだと、気象庁は説明している。冬の豪雪地帯がいま豪雨に見舞われている。「記録的短時間大雨情報」が連発されるなか、新潟・福島に豪雨が集中して河川が決壊。洪水が各所に発生している。現代でもまだある出水(でみず)の哀しい風景である。
養和のころとか、久しくなりて覚えず。二年があひだ、世の中飢渇(けかつ)して、あさましき事侍りき。或(あるい)は春・夏ひでり、或は秋、大風・洪水など、よからぬ事どもうちつづきて、五穀ことごとくならず。むなしく、春かへし夏植うるいとなみありて、秋刈り冬収むるぞめきはなし。養和のころとは、平家全盛の安徳天皇の治世である。鴨長明が27,8歳の頃で養和元年(1181)4月に飢饉、6月に旱魃(かんばつ)、同2年(寿永元年)春に飢饉・疫病、5月に旱魃・疫病、6月に洪水などがあったことが、当時の資料にある。
地震、津波、原発事故と未曾有の大災害に見舞われた恐怖が、未だ覚めやらないのに、再びの大洪水が襲っている。冠水した水浸しの光景が写し出されるテレビ画像を観て、自然の脅威に慄く。今回も40万人以上の人に避難指示や勧告が発せられている。それらの人々の表情から、鴨長明の
ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、ひさしくとどまりたる例(ためし)なし。の嘆きが伝わってくる。今年の日本は、大きな災害の年に中っているのだろうか。気懸りなことではある。
―今日のわが愛誦句
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ルオーの太陽輪郭ばかりの水禍の村 伊藤途之男
―今日のわが駄作詠草
・雪は積もり雨は流れて泥の海
悲し越後の干菓子頬ばる


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