スナックを開店するので、と近隣の同商売の店に挨拶状に焼酎ボトルを一本添えて「つまらないものですが、今後どうぞよろしく・・・」と挨拶まわりをしたところ、「そのようなものは要りません。もって帰って」と素気無く突っ返されてしまったとその店の経営者から愚痴を聞かされる羽目になってしまった。
荊妻豚児(けいさいとんじ)ということばが中国にある。「つまらないものですが」といって人に贈り物をするのが、日本人の奥床しい言葉使いの礼儀ではあるのだが、「荊妻豚児」というのも中国では謙遜をいうことばなのである。すなわち、「荊妻」とは、後漢時代、梁鴻(りょうこう)という者の妻の孟光(もうこう)が、荊(いばら)の花を、簪(かんざし)として使用していた。夫は妻を人に紹介するときに、荊のかんざしをした妻、荊妻と紹介したのがはじまりであるとされているらしい。そして、「豚児」の方は、魏の曹操が呉の孫権の武勇を褒めて「子供を生むならば孫権のような子が欲しいものだ。あの劉景升の児子のような意気地なしは、豚か犬のようなものだ」といったのが始まりとされている。因みに、「荊妻」ということばは手紙とか死亡広告などにつかうのだが、豚児の方は日常語としていまも使われている。さしづめ、先の近隣のよしみを乞う挨拶の折の仕打ちは「豚児」ならぬ軽重浮薄なことで、相手にするな、としか慰めようのないことではある。下手なウンチクを垂れながら、感情が治まらぬご仁を説得、慰めるのに疲れてしまった。
先ほどから大阪市内に雷鳴が轟いている。大雨、洪水警報のテロップがテレビの画面を走って行く。いま、次の総理大臣を目差す民主党代表選の候補者の立候補の弁解を聴いているところである。何処かで落雷があったのか、消防自動車がけたたましく駆けて行った。大夕立のなかでの日常の一コマである。この間、34.6度あった気温が一気に10度近く下がり24.7度になった。日本の政治は総理大臣という頭をすげかえるだけで国民の怒りを一気に10度近く下げることが出来るだろうか。日本の日常もまたけたたましく動いている。
―今日のわが愛誦句
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夕立や江戸は傘売りあしだ売り 大江丸
―今日のわが駄作詠草
・夕立に打たれてこころ敗れしよ
びしょ濡れになりまだ濡れに行く


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