輪中(わじゅう)とは、概(おおむ)ね江戸時代、水害を防ぐために堤防を集落の周囲に張りめぐらせている地域のことで、岐阜県南部、三重県北部、愛知県西部の木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)とその支流域に存在している。わが母の故郷もこの輪中の近くで、戦時中疎開した折に、その堤防を歩いた思い出がある。台風12号に続き台風15号が各地に洪水の被害をもたらし、名古屋市民100万人近くに避難勧告が発令されたと聞く。
昨今、都市部の河川の氾濫が多く見られるのは意外なことであるのだが、お天気博士の異名がある倉嶋厚の『季節おもしろ事典』を借りれば、「都市河川」と題して以下のような示唆に富んだ文章があるので紹介すると、
ススキ、月見草、渡し舟、水車と、昔は川といえば、こんな風景を連想するのがふつうだった。が、近年の川の姿の変わり方はすさましい。とくに近年、水防関係者の間で新しく用いられるようになった言葉に、都市河川というのがある。昔、トンボを追いフナをとった郊外の小川は、いまでは××銀座などと呼ばれる繁華街の裏を流れるドブ川に変わり、もうだれも「川」とは思っていない。が、台風や梅雨前線の豪雨が降ると、この川が予想外の水害を起こす。宅地造成のブルドーザーが、これまで雨水のたまり場だった丘の林をけずりとっており、アスファルト道路は降った雨をただちにこの川に流し込むからだ。その結果、新しい水害危険地帯が大都市の周辺に広がりつつある。このような人工的な水害危険河川を、水防関係者は都市河川と呼んでいるのである。 雨を伴いながら接近して来る台風15号も、都市河川を氾濫させている。現在ある臨海工業地帯はたくさんの輪中で出来ている。もし、番人が任務を怠って輪中が決壊したりしたとき、その存在が初めて認識されるだろうが、人が造った絶対と思われているものが、自然に破壊されることを目の当たりにしている。これでもかと自然の脅威を認識させられている。次々に報道されるテレビ映像を追いながら雨による被害のことを考えているところである。
―今日のわが愛誦句
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立ちさわぐこと皆すみて秋の雨 野坡
―今日のわが駄作詠草
・口笛の流れるかなたに雲移る
数千の高度どこまでつづく

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