若狭から鯖街道に入る。熊川宿という現在も昔の面影を留めている宿場がある。ちょっと一服のつもりで立ち寄ってみる。
夕ぐれが迫っていて、きょう一日、この熊川宿をテーマにした水彩画同好会の描き終えた制作作品の合評会の最中で、並べられている作品を横目に見ていると、写真では表せない、この宿場の情景をいろいろな場所から描かれている構図にこころの和むのを覚える。
芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花「萩の花、尾花(をばな)、葛花(くずはな)、なでしこの花、をみなへし、また藤袴(ふぢはかま)、朝顔の花」万葉集にある山上憶良の秋の七草を詠んだ有名な歌がある。その秋の七草をさり気なくあしらった作品に共感する。街道を散策しながらあたりを見渡せば、其処彼処で秋の草を散見することができる。都会では花屋でしかお目にかかれない秋の草々が、自然のなかに咲き乱れている風景に出合えて嬉しくなる。
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり
釋迢空(折口信夫)の名高い短歌が思い出される。その葛ではあるが、山際の杉林の木に蔓が巻きつくまでに繁茂している。この葛の葉裏が白いのに特徴があり、秋風が吹くとその葉が裏返っている風情に秋を感じるものだ。大阪を出て琵琶湖の東側を若狭に、復路は西側を京都に琵琶湖を一周しての小さな旅を終える。この円周のなかの水と電力の恩恵に浴する者には、深く深く考えさせられる半日であった。
この鯖街道を京都へ進むのだが、その昔、一晩で、京都まで鯖を運んでいたことを思えば、気の遠くなるような驚きを感じる。洛北大原の里の灯を見ながら、ここまでたどり着いても都はまだまだの感がした。
―今日のわが愛誦句
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抱一の観たるがごとく葛の花 富安風生
―今日のわが駄作詠草
・秋彼岸たちまち暮れて彼岸花など
琵琶湖に続く川に流して

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