寒さが厳しければ厳しいほど、春を待つこころの期待は強い。昼が最も短く、夜が最も長い冬至のころは、午後4時30分ころであった日没の時刻が、年が改まり、小寒を経て小正月ころには20分近く日が伸びて、大寒を過ぎた今時分では午後5時をまわっての日没である。野口雨情(1882−1945)の童謡
『あの町この町』の情景が思い出される。
あの町この町 日が暮れる 日が暮れる
今きたこの道 かえりゃんせ かえりゃんせ
お家がだんだん遠くなる 遠くなる
今きた この道 かえりゃんせ かえりゃんせ
お空にゆうべの 星がでる 星がでる
今きた この道 かえりゃんせ かえりゃんせ
日が暮れて、今さっき来た道を、もう家路につかなければと思う子供こころの切なさが伝わってくる。
おれは河原の 枯れすすき 同じお前も 枯れすすき
どうせ二人は この世では 花の咲かない 枯れすすき
『船頭小唄』。憂愁の詩人、野口雨情の命日が今日1月27日である。日本の敗戦も知らず、春を待ちつつ逝ったのである。
『草萌(くさもえ)』という詩が思い浮かぶ。春になって草の芽がいっせいに吹き出す日も近いのだ。
赤い花なら 燃えると思へ 若い娘は 皆身が燃える
白い手拭 うしろに結び 赤い花だと 身ばかり燃やす。
冬の間、枯れ野原であったあたり一面に、春が来ていっせいに草が芽生えて、早春の息吹きに満ちあふれている情景に自然の生命力と、若い娘の精気あふれた姿とを重ね合わせて、印象的に色彩を構成し、春のことぶれを感じさせてくれる軽快な調子で、軽妙な筋の展開にまとめあげた、いきいきした詩である。
からす なぜ鳴くの からすは山に かわいい七つの 子があるからよ かわい かわいと からすは 鳴くの かわい かわいと 鳴くんだよ 山の古巣へ 行ってみてごらん まるい眼をした いい子だよ
―今日のわが愛誦句
・
見ぬかたの花咲く春を待つ身かな 大魯
―今日のわが駄作詠草
・春を待つこころは一つストーブの
前に寝ている猫二匹いて

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