今朝のNHK朝ドラ
『梅ちゃん先生』の一場面を思い出す。終戦直後、焼跡のバラック住居で生活している家族のところに、長女の婚約者で戦死してしまった軍医に助けられたという人が訪ねて来た。家族から、大学教授の父の体裁を考えて、家を建て替えようと提案するが、清貧に甘んじなければならないと、家族の願いを一蹴してしまい、家長の威厳に抗うことができない不満がくすぶっているところへその男の登場である。彼は、建築業者で、材料費が高騰しないうちにと、新築を勧める。が、父はがんとして受け付けようとしない。男はこのバラック建ての家屋を見渡して、この家には大黒柱がない。あるではないかと言えばそれは細くて大黒柱とはいえない。家族には大黒柱になる人がなければその家族は、不安定である。同じように家屋も大黒柱のないのはどうでしょうか、といって去って行く。ひとり残った父親の孤愁の表情が目に焼きつくシーンであった。
混乱のあの頃から、昨日想像も出来ない634メートルの東京スカイツリーが下町の天空に聳え建った。新聞報道によれば、雨にも負けず20万人以上の人出があり、前日の金環日蝕を仰ぎ眺めたように天望している光景が滑稽にも思われた。かって、東京には浅草十二階と呼ばれた「凌雲閣」という名物の高い建物があった。明治時代、文明開化の一貫として建てられた高層の塔であったのだが、関東大震災で崩壊してしまった。そのあと、太平洋戦争で東京は再度、焼土となり果てた。そして、今、634メートル、まさに雲を凌ぐ塔が聳え立った。世界に誇る技術の粋を集めた最高の建築であるといわれている。
『旧約聖書』創世記にバベルの塔の教えがある。人類は時が経っくるにつれて、堕落して行き、人心は絶えず悪に傾いていった。そこで神は地上に人を創ったことを悔やみ、この世のなかの人類をすべて滅ぼそうと思い、罪悪におぼれた人間のなかで、ノアだけが、正しい人だったので、「糸杉の木で箱舟を造り、なかに部屋を設け、アスファルトでその内外を塗って固めよ」、と教えた。ノアがその家族や家畜とその箱舟に入って7日目に、40日40夜大雨が降り続き、世界は、洪水の濁流にのまれ大海原となり、人、獣すべてが死滅してしまった。やがて雨も止み、洪水も引きはじめ、箱舟より、ノアの家族は出て大地を踏みしめた。これによって人類は絶滅からまぬがれ、ノアの子孫たちは再び地上に繁栄していった。ノアの子孫たちは急速に増えていった。彼らは同じことばを同じ発音でしゃべっていたが、故郷を出て東方の地に進出していった。レンガを造り、町をつくり、頂きが天に届く塔を建て、名をあげ、全世界に散らされるといけないとの企てのためであった。彼らが建てようとする愚かな計画と、傲慢を打ち砕くために天は、その言語を乱し、互いに意思が通じなくし、そこから各地に散っていった。そして、彼らは都つくりを断念した。その建てかけた都をバベル、ヘブライ語で混乱と呼んだ。
開業した東京スカイツリーにも、昨日、強風と雨でエレベーターの昇降を400メートルを超す空中で中断する混乱があったらしい。こんな高みで混乱以上の混乱はあってはならない、と念じながら、バベルの塔の故事を思い出した。
―今日のわが愛誦短歌
・
城のごときものそそりたつ青年の
内部、怒り目より覗けば 塚本邦雄
―今日のわが駄句
・高塔に梅雨の走りや足すくむ
ブリューゲル「バベルの塔」

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