昨日、見に行きました。
渋谷・池袋での公開から遅れること一月あまり。
かねて聞き及んだ冒頭長回しで、次々に主要な人物が、それぞれ、それらしい特徴をもって登場してくる。(学生たちによれば、中條教授が好きなのは溝口監督で、『爆発シネマ野郎』ではジャッキー・黒澤は市役所の溝口さんを監督にしてしまうんだ!中條教授=本田博太郎=ジャッキー黒澤、ハイ)
中條教授は、丁丁発止の現場から降りて久しいのだな、足取りに生気が無い。そして、最後にヒップホップを踊る学生たちの中に美しい女学生レイ(黒木メイサ)を見つけてカタマル。
課題映画制作のクランク・インを控えて、それこそ学生たちの間には丁丁発止と火花が・・・まあ、人間関係とか、映画の主人公たる高校生・武田の不条理殺人の解釈とか。それとは無関係に、中條教授は、図書館でレイを見かけると目が離せず、彼女が出てゆくと動揺しつつ後を追う。中條教授に付いてる音楽がマーラーの交響曲第5番で“アッシェンバッハ”気分です。しかし、“ベニスに死す”ではなくて“池袋に死す”だからな。
それはともかく、中條教授の心の震えが伝わるような、表情とか仕草とか、よごさんすな。授業中、窓の下のレイを見つけて凝視してしまう表情が切ない。
夜のキャンパスでの池田(中泉英雄)との対話シーンも・・・中條教授の表情の動きはむしろ微妙で、池田の目の表情が凄かったです。このシーンについてるコーラスが『アヴェ ヴェルム コルプス』って、なんでかなぁ?“わき腹、血潮に赤く染めたまいぬ”みたいな、歌詞なんだけど。
大山(田口トモロヲ)を介して、レイとの会食を約束を取り付けた中條教授は、なんと、白塗り!で出かけてゆく。その会食の場で、レイは中條教授の期待や幻想を次々と裏切ってゆくんだけど、この場面、中條教授の唇の動きがいいですねえ。
“吐き捨てたい思い”というようなシーンで、口に含んだ酒を吐き出すというのは『CROW 眠らない天使たち』(1999.12.25)の呉國強でお演りなんでその応用かと思ったけど、教授室に帰り着いた中條教授がやるのは、台本にそう書いてあるんですね。
中條教授の懸想粉砕事件は、学生監督・松川(柏原収支)とユカリ(吉川ひなの)の事件と同時進行です。事件を知らせに走った学生たちが教授室で見たものは・・・酔いつぶれ薄ら笑いを浮かべた白塗り中條教授!その後、中條教授はどうしたかわからないけれど・・・
松川は死亡に至らず重傷で、チーフ助監督だった久田(前田愛)が監督となって映画はクランクインを迎えることになる。中條教授は、何事も無かったように、学生たちを指導してますね。中條教授については特に見所もないですが、『カミュなんて知らない』は異様な姿を示します。
それまで、学生たちの間で高校生による不条理殺人が“試してみたかった”“実験してみたかった”と真摯な論争だったり狂騒的悪ふざけだったりしていたにが、にわかに生々しくたち現れてくる。殺人場面を撮ってる場面なのか殺人場面なのか、その辺が巧妙にボカされて(カットの声が家の中の俳優に聞こえなくてそうなった部分もあるそうですが)、妙な気分になりました。
小ネタ
そうそう。農道を自転車で走る武田役の池田を学生たちが撮影するシーンのスチルを“インビテーション”誌で見て『下妻物語』と思ったけれど
http://wind.ap.teacup.com/0208/120.html
武田による老婆刺殺事件用の民家は、『下妻物語』の桃子の家だそうです。
中條教授のフルネームは、中條英雄。中泉英雄と一字違い。
大山クンは、レイといっしょに中條教授をハメたワケだけれど、中條教授の“映像ワークショップ”から追放されることもなかったらしい。ラストの血糊を拭き取る学生たちの中に大山らしき姿をみとめました。
名古屋・シネマスコーレ 『カミュなんて知らない』2月24日(金)まで。
2月25日(土)から、名古屋・名演小劇場で『愛してよ』

0