『忠臣蔵外伝 薄桜記 孤高の剣豪丹下典膳と赤穂浪士堀部安兵衛宿命の対決』
放送日:1991年10月4日 テレビ東京 秋の時代劇スペシャル
監督:高橋繁男 脚本:鈴木生朗(原作:五味康祐『薄桜記』)
正式の忠臣蔵仇討事件の、いわば場外乱闘の物語です。
吉良邸討ち入り直前に、赤穂浪士・堀部安兵衛が丹下典膳を討ち果たし仇討の妨げを取り除いたというハナシで、討ち果たされた丹下典膳が主役。安兵衛がどうしても吉良邸から彼を除いておかなければ、上野介を打ち取ることはおぼつかないと考えるほどの剣豪で、それも隻腕だから尋常の剣豪ではない。
原作では、典膳は、研ぎすまされた孤高の剣士、人格高潔かつ思慮深い人物でしかも哀愁が漂うんですが、このテレビ時代劇では演じているのが杉良太郎で、チト雰囲気が違うような・・・。“薄桜”の禁欲的な淡さよりは、花見団子のボッテリした感じ。ま、杉サマの娯楽時代劇ですから。対する堀部安兵衛を演ずるのは、竜雷太。この5年後にはフジテレビの『忠臣蔵』の番外編「決闘 高田馬場」で菅野六郎右衛門をやっている。う〜ん。
そして、典膳を隻腕にしてくれるのが長尾竜之進、博太郎さん!タイトル前から、「覚悟〜ぉ!」バサッ。裂帛の気合いもろとも典膳の左腕を斬りおとします。
長尾竜之進は、その裂帛の気合が値打の役で、それで博太郎さんなのかとも思われますが、これが意外と妙な陰影がある。妙なんで竜之進は考え深いのか短慮・短気なのか、ようワカラン。竜之進の出番は
その一つ。
妻・千春(佳那晃子)に不義の噂の立つ中、大坂勤番から江戸に帰って来た典膳。典膳は謡を披露するからと招待した人々の前で白狐を仕留めみせて、千春の身辺の怪しからぬ出来事はすべて白狐の仕業と噂を打ち消す。千春の父や客たちは大いに納得し喜びもするが、その中で硬い姿勢を崩さぬ千春の兄・竜之進。白狐は、不祥事を取り繕うための典膳の作り話とわかっているのか。イヤイヤ、作り話が分かっているのは父やほかの客たちで、お互い、大人の対応として大喜びしているのであって、竜之進にはそこんところがいま一つ見えてないのか?
不義事件の詳細は不明ですが、千春をやってるのが佳那晃子なので、真相はクロのような気分。
その二つ。
妻の不義・不貞の噂も人の口の上らなくなったころ、典膳は千春を離縁してしまうのですねぇ。千春を自ら実家に送ってきた典膳は、離縁の理由を明らかにしないので父は激怒。次の間で聞いていた竜之進、「父上、声が高うござる」。そして、狐の一件を確かめたうえ、「その挨拶は拙者がいたす」とこの辺りまでは、無表情といってもいいくらい静かに落ち着いているんだけどねぇ。「性根を据えてくれる」と目をむいて睨みつけて「覚悟〜ぉ!」。バッサリ。斬り落とされた腕の指がゴニョゴニョ動くって、あまりいい趣味とは思えんけど・・・これ、回想シーンでも出てくる。エンド・クレジットの背景でもうごめいてる。
その三つ・・・の前に高田馬場での中山安兵衛の活躍があって、
安兵衛を婿にと考えた人物は堀部老人のほかにもう一人=竜之進。
刀の手入れをしながら、千春に「あやまらねばならぬ」というから何事かと思ったら、安兵衛を千春の夫にと考えたけど堀部老人にとられたんだってサ。そのうち、ふさわしい相手をみつけてやるとサッパリしたもの。
典膳の事件を伝え聞いた安兵衛は、
典膳は旗本、長尾家は米沢上杉家の江戸留守居、斬りつけられた典膳が反撃でもすれば、直参旗本 vs 大名の争いになりかねない、大事の前の小事としてよく耐えた
と称賛しきり。のちの浅野内匠頭の刃傷事件に対するかなりキツイ皮肉に聞こえますね。
片腕を失った典膳は、それでは旗本のお勤めが果たせないと老僕(左右田一平)一人をつれて浪人に。
千春のほうは、実は典膳が忘れられない。典膳のほうも離縁しても心の奥底では御同様。じゃあなんで、狐一匹犠牲にして不義の噂を打ち消したのに離縁したんだ、狐がかわいそうではないかというハナシ。おさむれぇの考えはわからねぇ。
イロイロあって、典膳は白竿組の頭・長兵衛(石丸謙二郎)のところへ。
石丸謙二郎がいいんですよ。セリフの歯切れよさ、立ち居振る舞いの小気味よさ、この作品中で一番!
ほかに特記事項としては・・・武者修行(?)に出た典膳が遭遇する鎖鎌の武芸者が福本清三だった!
千坂兵部の頼みを断りに出向いたのに兵部は死んでしまって、そのために吉良の付人となった典膳。典膳の人柄・力量をよくわかり尊敬もしている安兵衛。その対決は、原作のほうがオススメ。

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