『忠臣蔵 第9話 吉良邸討入り』
放送日:1996年12月18日 フジテレビ(東映ビデオ VRTM 01990)
監督:齋藤光正 脚本:古田 求
やっと来ました、最終回。結末は、もう300年来わかってるし、このドラマの討ち入りの模様の大方の様子は、毎回の冒頭タイトルバックでやってるし・・・
最終回でも同じように討ち入りダイジェストみたいなのをタイトルバックで見せるのは如何なものだろう。“艱難辛苦の日々でございました”の寺坂吉右衛門(寺尾聰)のナレーションにつなげるよう苦難の日々の回想などの方がよかったんじゃないか?何しろ、あまり艱難辛苦らしく思えないんだから、特に大石内蔵助(北大路欣也)。千坂兵部(石橋蓮司)にお茶に呼んでもらって、そのあとは、京伏見で茶屋遊び。
しかし、見どころはイロイロあるのです。
赤垣源蔵(勝野洋)の羽織の別れ(あるいは、徳利の別れ)。永の暇乞いをしようと兄・塩山伊左衛門(左とん平)を訪問するも不在で、羽織を兄に見立てて別れの酒を酌み交わす話。女中の杉(小林綾子)とのやりとりがいい感じ。
小山田庄左衛門(萩原流行)と島(池上季実子)の別れ損ない。無茶、芝居がかっていますが、これは芝居ですから。それにこの二人萩原流行と池上季実子なら、ナチュラルよりはドラマチックのほうがOK。
落魄の態で煤竹を担いで売り歩く大高源五(平田満)を呼び止める宝井其角(仲谷昇)。二人の間で交わされる付け句。大高源五は、吉良邸の塀を乗り越えたり、隣の土屋主税(中村梅之助)邸へあいさつに行ったり、そこでもまた其角と付け句、と大活躍ですね。
で、吉良邸での四十七士大暴れ。その前に、討ち入り装束で次々階段を下りてくる義士たちに腰を抜かす蕎麦屋のおやじ(須賀不二男)の前にバラバラと投げられる小判2、3枚。このカット、好きなんですよ。
吉良邸の門前に口上書をはさんだ青竹を突き立てるのは、片岡源五右衛門(本田博太郎)。髷を切ってさんばら髪の頃は険しい表情のためか老けた印象でしたが、吉良邸門前の源五右衛門は張りつめた顔つきながら何となく若々しい。
吉良邸内での乱闘は、四十七士は皆同じ格好だから誰が誰やら見分けるのがたいへんですが、お気に入りの役者がどことどこに顔を見せているか捜すのも一興。
源五右衛門は、タイトルバックにある邸内から庭に飛び降りてあっちこっち斬り伏せてるシーン。本編ではそのあと大口を開けて吠えてます。ありゃどう見ても人に似た格好の野獣ですね。襖を開けて飛び込もうとする仲間を押しとどめて「ヤマッ!」。はたして出てきたのは吉良の者どもなんで真っ向から斬りつけるってのも源五右衛門だナ。重要なのは、上野介(平幹二朗)が炭小屋から引きずり出されたところに駆けつけてるシーン。地べたに引きすえられた上野介の顔を跪いて覗き込み、「間違いない」と唸る。
乱闘の中でも吉良側の小林平八郎(誠直也)と清水一学(隆大介)はよくワカル。タイトルバックにも使われている、小林平八郎が身を翻して女物の小袖を払い捨てるところは何度見てもカッコいい!
カッコいいといえば、大手を広げて上杉綱憲(中村獅童)を押しとどめる千坂兵部!
大体、この『忠臣蔵』は赤穂より吉良・上杉のほうが出来がいい。赤穂浪士は大石内蔵助以下、ほとんど型にはまった感じがしますが、吉良・上杉は人数が少ないので一人一人ちゃんと造形できたということもあるのでしょうが、それぞれクッキリした人物像で人らしいニュアンスもあります。
赤穂浪士の近親・縁者の中では、赤垣源蔵の兄役の左とん平とか勝田新左衛門(丹羽貞仁)の舅・大竹十兵衛役の伊東四朗が、やはりというかさすがというか、うまい&面白い。
片岡源五右衛門のラストは、切腹に出ていく大石内蔵助に声をかけるところ。いい表情してます。セリフがなくても、この表情だけで語りかけてくるものがあります。同じ部屋に白装束で何人もいますが、他には、吉田忠左衛門(神山繁)も雄弁な表情。
面白い部分もありますが、全体としては陳腐な『忠臣蔵』です。勿体ぶっているのが鬱陶しいですが、それが正統派時代劇だよと言えんこともない。
もっとほめちぎって、手持ちの中古VHSを某ネットオークションで高く売るというのも有りなのだが・・・

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