『ストレスの科学』(監修:若手研究者のための生命科学セミナー組織委員会、発行:(財)万有生命科学振興国際交流財団、2007年3月30日)の中にちょっと興味深いハナシが載っています。
http://www.banyu-zaidan.or.jp/symp/about/info/pdf/science_of_stress_all.pdf
有田秀穂による“涙とストレス緩和”(p85-89)。
“泣く”ときの大脳前頭野の活動について書かれているんですが
お〜なるほどと思ったのが、泣けるビデオは気分スッキリするという実験。
泣けるビデオを見せる実験で、見たあとの心理テストでは、混乱、緊張・不安が緩和されて、被験者の自覚としても「スッキリした」気分になったという結果。「号泣しました」「泣けました」というのがテレビドラマや映画の最高のほめ言葉らしい人に時々出っくわしますが、こういうことなのかな。これに対し笑えるビデオの後は、心理テストでは活力の増加がはっきり見られたという。
で、こういう心理的効果に対応するものとして、近赤外線分光法で測った大脳前頭前野のヘモグロビン量のグラフが示してあるんだけど、号泣する瞬間(トリガー期)に酸素化ヘモグロビン(oxyHb)がスパイクみたいに急激に増えてる(あまり急激なんで、ワタシャ、アーチファクトかと思っちまったイ)。ヘモグロビン量が増えてるということは血流が増えてるということ、すなわちその部分の活動が高まってるということ。だそうナ。
因みに、恐怖のビデオを見せたら、前頭前野の血流量が減ったそうナ。まさに「血の気が引く」状態ですが、具体的なデータを図示してないのが残念。
もう一つ、とても興味深いけれど、具体的なデータの図がないのが残念なのは「役者の涙」の実験。
泣く演技をする時は、ドラマの内容とは関係なく自分の悲しい体験を想起して涙を流す場合と、ドラマの内容に自分を置いて役になり切って泣く場合があるとして、前頭前野の活動や心理テストの結果を比べているワケ。前頭前野の活動は、悲しい体験を思い出して泣きの演技をする時は泣けるビデオに対する反応と似ているけれど、役になり切って泣く時は笑えるビデオのパターンと似ているんだって。
シロウトの見物人の立場としては、ドラマの内容とは無関係に思い出し号泣する演技より、役になり切って、しかも状況をコントロールしつつ泣く演技の方が上質・高級みたいな気がする。博太郎さんはどっちが多いんだろう?『雲霧仁左衛門』の最終話で、“最後の大仕事”のあとお頭・仁左衛門(山崎努)と別れる熊五郎(本田博太郎)など号泣こそしないけれど本当に泣いてるように見えるけど。
で、役になり切って泣いた場合、“混乱は増加し,疲労,緊張・不安,抑うつも増強した.役者の涙は逆にストレスを増強させる場合もあるものと考えられた”そうですが、これは、役者の力量にもよるんじゃないか?もしかして、実験に参加した役者は、役になり切って泣くのが不得意でストレスだったり・・・とか。

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