『必殺仕事人2010』
放送日:2010年7月10日 テレビ朝日系
監督:石原 興 脚本:森下 直
アバンタイトル部分だけに姿を見せる中村主水(藤田まこと)に捧げられたヤツ。
経師屋の涼次(松岡昌弘)が首括りの生き残りの少女の頼みを聞いて暗殺しよう付け狙う相手は、“天下の敵役” 勘定吟味役・風間右京乃助(小澤征悦)。当初、志高く幕府の財政改革さらにすすんで社会改革を目指す若き理想主義者みたいだったのが、仕分けの成果は大不況に飢え死に・縊れ死に、先送りばかりで煮え切らない上司、筆頭老中・沢木丹波守輔忠(津川雅彦)、その一方で、改革の頓挫に結び付きかねないお咲(前田亜季)の妊娠、さむらい抹殺を目指して武家殺しテロに走る陣吉(猪野学)ら仲間、大奥お年寄り・霧島(かたせ梨乃)に握られた茶碗・・・と追いつめられて、とうとう、本当に仕事の的に値するようになっちゃう話。身銭を切って寺で炊き出しするとか、お咲とねんごろとかいうのは、柿本平三郎として。身銭を切りすぎてとうとう先の上様から父親に下された茶碗を質入れしてしまい、霧島に脅されるのは風間右京乃助。切腹とかお家断絶とか霧島に攻められて、次のステージにいっちゃうというか、方針大転換をするというか、その瞬間の右京乃助=小澤征悦の笑いが凄い。
右京乃助がそうなる前、筆頭老中・沢木丹波守輔忠を後ろ盾にバッサバッサと事業仕分けをしていたころ、取りやめとなった御狩場普請の継続をねじ込みにやってきたのは普請奉行・酒巻勘解由(本田博太郎)。このときは、利権にしがみつきたがるフツーの悪役奉行に見えた。少々カリカチュアライズされてるところがあるのは、娯楽時代劇ではよくあること。
ところが、大転換した右京乃助に上から物を言われて以降、この人、酒巻勘解由のグロテスクさと滑稽味はただごとではない。
次の老中サマ・右京乃助に御狩場普請再開を認めてもらってゴミ掃除の後始末を押し付けられて情けなくも右京乃助の前に手をつく酒巻サマ。
後始末仕事のひとつがお咲。
右京乃助―お咲にとっては柿本平三郎か―に言われて酒巻のところにやってきたお咲。彼女を見て、嘆息しつつ「あわれなり」。でも、バッサリ殺ってしまって、酒巻さん「つまらぬものを斬らせおって、口惜しや、口惜しや、口惜しや」。本当に口惜しいのはお咲のはずだけど、酒巻さんの“口惜しや”が滑稽でもあり印象的でもある。
柿本平三郎の右京乃助がひそかに毒を盛った炊き出し。たぶん死人の山ができたことだろうけれど、寺の後始末も酒巻勘解由と配下の椿弥一郎(木下ほうか)、上州屋総兵衛(赤塚真人)。馬上の右京乃助が陣吉らを斬り捨てるのを見て、椿が「お見事」の声をかけるとそれを押しのけて酒巻サン「お見事でござ〜〜る!」とわめき声。口惜しくてもヨイショは欠かせぬ。
口惜しさは、右京乃助がいないところでは大爆発で、「おぬしゃどっちについて行く気じゃ、上州屋」だの「変わり身がはやくて厚顔無恥なものだけが生き残る」だの「志など犬にでも喰わせろダ」だのなんだのや椿や上州屋にわめき散らして大変。で、急に声を落として「どう思う、椿?」とかねちっこく絡むようで怖いですねぇ。相手になりたくないですねぇ。
で、抜け出した上州屋は花御殿のお菊(和久井映見)に誘われ仕立て屋の匳(田中聖)の手にかかる。
イジイジと火箸で火鉢をつつきつつ椿を見て「(上州屋は)遅いのう」という酒巻サマってなかなか好きですがね。上州屋が帰ってこないので様子を見に席を立った椿も童山実はカルタの力(内藤剛志)のカルタで仕留められる。カルタはそのまま酒巻の座敷に飛び込み行燈の明かりを陰らせる。で、酒巻さまは火箸で火鉢をつついたまま、涼次に襲われる。こと切れる酒巻さまの姿といい表情といい、グロテスクでありながら何やら可笑しげでちょっと可哀想でもある。
椿の首筋を斬ったカルタが座敷に飛び込むとか、
樹上の涼次が渡辺小五郎(東山紀之)に小石を投げ返し、小五郎がひょいとよけて小石が落ちたのは外から帰って来た如月(谷村美月)の足元とか
岡本喜八の作品を思わせますね。匳が仕掛けた“お札参り”(“おかげまいり”のことか?)も岡本喜八『ジャズ大名』もどきだけど、『必殺仕事人2010』のほうはかなりショボい。
ユーモアとグロテスクは“必殺なんとか”というような時代劇の場合、的として殺されるほうよりも主役にほしいような気がする。藤田まことや緒形拳など、ユーモラスでありながら一瞬とても恐ろしげで不気味だったりした。そうそう、本田博太郎の仕舞人・直次郎も奇怪でかつ滑稽味もあった。『必殺仕事人2010』と『必殺仕事人2009』の仕事人たちの中では田中聖がとりあえず見た目グロテスクにできそうだから、がんばっていただきたいもの。

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