『天国と地獄』
放送日:2007年9月8日(テレビ朝日)
監督・脚色:鶴橋康夫 脚本:小国英雄、菊島隆三、久坂栄二郎、黒澤 明
(原作:エド・マクベイン『キングの身代金』)
久しぶりに面白いドラマを見ました。本当に見ごたえのある佳いドラマでした。
誘拐の主犯・竹内銀次郎(妻夫木聡)は、はじめからわかっているのですが(名前がわかるのは、かなり後のほうですが)、それでも緊迫感は少しも緩まない。
それに、いつもの、鶴橋監督の光と影の扱い、登場人物たちの心のひだや葛藤そのまま、ガラスに映りこんだりプリズムで屈折したように重ねあわされる映像がとても効果的でした。音楽は、愛ルケと同じ人が担当かな(うん、仲西匡だよね)。
ドラマの初めの部分で、権藤(佐藤浩市)が主張する靴作りを聞いて、先日NHKの“プロフェッショナル 仕事の流儀”で取り上げていた靴職人の山口千尋さんの話を思い出しました。
山口さんの風貌は、博太郎さんを少々野蛮(スミマセン。高貴な野蛮人というキャラ好きなので)にした感じで、プロフェッショナルとしての姿勢もたぶん通じる部分がある・・・と思いました。帰国したばかりの頃の山口さんは博太郎さんには全然似てないのに、職人としての歳月が今の面構えを作り上げたのか・・・?
http://www.nhk.or.jp/professional/backnumber/070904/index.html
閑話休題。『天国と地獄』にもどって
権藤は、靴職人なんだ。権藤とは関係ないシーンですが『ニュルンベルグのマイスタージンガー』序曲も使われますね。ニュルンベルグのハンス・ザックス、靴屋の親方です。
しかし、権藤は、ビジネスで勝負に出ようとする重役でもありました。そのために用意した金を、他人の子供の身代金として投げだすのか?
身代金の引渡しは?戸倉(阿部寛)ら刑事たちは、どうやって銀次郎を追い込むのか?わかっていても、画面に釘付けになってしまいました。しかも、引き締まったサスペンスでありながら、叙情的で詩的。見てる人の気持ちに訴えるドラマです。
本田博太郎さんは刑務官役ということで登場はラストだろうと思ってましたが、ドラマそのものが面白いんで、それはノープロブレムです。
死刑を前にした銀次郎は権藤との面会を求めます。銀次郎を連れてくるのが博太郎さんですが、帽子を目深にかぶって、顔見えないよ。銀次郎は、当初平静を装っていたけれど、取り乱して暴れ始めます。本田刑務官は、銀次郎を抱えるようにして取り押さえ「静かに」と繰り返しささやく。このささやくってのが、よいです。顔を隠すように帽子をかぶっていて「静かに」とささやく。天国でも地獄でもない、あちら側と行き来する優しい使者のようです。
博太郎さんは、銀次郎に殺されるヘロイン中毒者か思っていたのですが、そうではなかった理由。黒澤版にあったこの役は、鶴橋版にはないので・・・とか、ハハハ。“男装の恐山の巫女”ならこういう刑務官のほうがピッタリ。ヤクの売人のほうはお嬢さん風の女マリ子(井村空美)でありました。

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