『2時間7分の身代金』
放送日:1993.07.26(TBS 月曜ドラマスペシャル)
監督:鷹森立一 脚本:志村正浩(原作:関口ふさえ)
もうすぐ公開の『相棒―劇場版』では、東京ビッグシティマラソンの3万人のランナーと15万人の観客が人質。この『2時間7分の身代金』のレースは、第1回南紀くろしお国際マラソン。狙われるのは優勝候補のランナー。人質は波多家の一人息子まことクン。
事件の始まりは
故あって警察官を辞め、デパート勤めの賢一はそれなりに穏やかでシアワセそうに見えます。仕事中に掛かってきた妻・宏美(原日出子)からの電話−誰もが携帯電話を持っている時代ではないので固定電話−にも、微笑なんか浮かべちゃったり・・・ところが、その電話は息子が誘拐されたことを伝えるものであったノダ。形相一変。
このドラマの一番のお気に入りは、
電話の傍でまんじりともせず夜を明かし、やっと掛かってきた誘拐犯からの電話を受ける賢一。目がウルウルしてると見ていたら、犯人とやりとりしながら、涙がツツー。これが
水もしたたるその@。なぜかワタクシは感心してしまった。
賢一はどうやら一人で何でもかんでも背負い込むタイプらしくて且つ警察を全然信用してなくて、宏美よりもずっとずっとシリアスになっています。
犯人の要求は金ではなく(そりゃそうだ。公団アパートみたいなところに住んでるデパートの警備主任なのだ。逆さにつるして叩いてもいくらも出るものではない)、賢一にあること、賢一にしか出来ないことをしてもらいたいという。そして、まず羽田空港へ行けと・・・
金を要求されるのは、東日食品という会社です。とりあえず賢一とは何の関係もない。
東日食品は、池田勇二(峰野勝成)という有力マラソン選手を抱えています。折りしも開催される第1回南紀くろしお国際マラソン大会の優勝候補と目されていましたが、池田をレース中に殺されたくなかったら1億円出せ、というわけ。脅迫電話を受けたのは、総務部長の鎌田洋三(西田健)・・・西田健だからねぇ、きっと、裏で犯人とつながってる!かどうか?
さて、池田選手が無事に完走して優勝すれば宣伝効果は絶大、1億円なんて安いものと、1億円用意して東日食品の重役・有吉幸平(渥美國泰)、鎌田などと、事件を担当する警視庁の刑事、森本恭太(布施博・・・この人が主演)と若手刑事・川村登(神保悟志、今じゃ『相棒』主任監察官)など、レースの行われる和歌山県田辺市へ。ちょうどその頃、警視庁公安2課の桜井刑事(木村栄)も南紀に出没。レース終了後、マラソン選手の一人、セルジオ・サントスから事情聴取することにしていた。セルジオ・サントスは子供の頃から、ブラジルの大実業家−実はコカイン密売の大物、ロベルト・モレノのパシリをしていたのだそうです。
何の関係もなさそうな東日食品恐喝と波多家の息子誘拐事件は、5年前の立てこもり事件が根っこにありました。母子を人質にして立てこもったシンナー少年を、警視庁ライフル班が射殺した。東日食品の退職者の中に、その少年の父親、三宅雄一郎(福田豊土)がいたのです。狙撃手は、ライフル班No.1の波多賢一。
誘拐犯・三宅雄一郎は、波多賢一を脅して東日食品の関係会社の車を爆破させ、さらにライフルを渡して次の仕事を迫ります。
あ、ライフルの名手にライフル渡しちゃいけませんや・・・と思いきや、銃口を向ける賢一に対し、三宅は落ち着き払って5年前の事件を賢一に思い出させます。ライフルをおろして「やむをえなかった。ああするよりほかに手がなかった」と言葉を搾り出す賢一の小鬢から汗がツツー。
水もしたたるのA
これまた、感心してしまった。
5年前、立てこもり犯を射殺する冷静そのものの狙撃手・波多と、現在、その父親に銃口を向け息子の開放を要求する波多の表情の対比が見もの。息子を失った父親と、息子を失うまいと命じられるままライフルを手にする父親の心理劇になるのかと思いましたが、息子を失ったほうの父親が、復讐が目的ではないとやらで、あまり深まりません。しかも、金目当てでもない。東日食品を脅し、波多にライフルを渡す、その目的は何か?
そして、レース当日。
東日食品は、犯人の要求どおり一億円を・・・和歌山県田辺市+億単位の身代金とくればヘリコプターでしょ。もっとも『大誘拐』の百億円とは文字通り桁が違います。そのヘリコプターをライフルで撃墜する賢一。賢一と三宅は携帯電話で連絡してます。『裏切りの日日』の携帯電話より大分進化してる雰囲気→『裏切りの日日』は1993年『2時間7分の身代金』よりも古いね。
森本らと連携する田辺署の署長・津島役は丹波哲郎・・・人物が物々しいわりにショボイ計画『北京原人』のあの大曽根氏と通じるところがありますナ。表立っては動けない田辺署として打った手が、マラソン大会に一般参加選手として走ることになっていた交通課の警官を、優勝候補・池田の護衛として伴走させる!長野じゃ聖火ランナーに百人の警官を伴走させたそうですが、聖火ランナーと勝負の掛かった国際レースじゃスピードが違いすぎる、そりゃ無理だろうヨ。
ここまで、森本は波多家の事件を知らなかったのですが、宏美と波多桐子(七瀬なつみ)が賢一の電話を手がかりに田辺にやってきて、子供を人質にされ賢一が何か危ない仕事を強要されているらしいことを聞かされます。森本にとって波多賢一は尊敬する先輩であり、恋人・桐子の兄であり、ムカシは宏美をめぐってライバルであったようです。
華々しく始まった、第1回南紀くろしお国際マラソン大会。出場者81名(マラソン・ランナーにしては、体型がポテポテ)ですが、観衆・大会スタッフや警備や報道の車両などかなり大々的。『相棒 -劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン』には負けますがね。
マラソン・レースに照準を合わせる波多賢一。
(ネタバレ回避のため中略・・・といったって、もう大分バレバレ)
森本に追いつかれて「もう、ライフルの腕だって」昔のようではないなどといわれる賢一。ところが賢一「俺は、マトをはずしちゃいない!」。このシーンでは汗もしたたりません。代わりに磯に波が砕けてしたたります。
取調室での賢一は、宏美に待っているといわれて、このシーンでも涙もしたたりませんでした。
テレビ愛知の再放送でした。

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