テレビで見た
『ミラーを拭く男』
公開:2004年8月21日 (長野県下では2003年8月30日から先行上映)パル企画
監督・脚本:梶田征則
血沸き肉踊る映画ではありません。号泣も哄笑もなし。
緒形拳が青空や風が渡ってさざめき立つ田んぼを背景に自転車をこぎ、雨宿りし雪の中を歩き、地図を指でたどり、脚立に上って黙々とカーブミラーを拭くのを眺めて微笑する映画です。カーブミラーというのは随分いろいろな所に様々な状態で立っているものです。これ、意外と面白い。その面白いカーブミラーの個性的な在り様に緒形拳演ずる皆川勤は、意表を突かれたり戸惑ったりします。皆川勤のセリフはほとんどありません。人に何故と尋ねられたり、全国のカーブミラーを拭くのは無理でしょうと言われたり、あるいはその他何かの言葉や、テレビの撮影クルーの注文に対して、皆川勤はあいまいに微笑んだり、うろうろした表情を浮かべたりするだけです。確かに言葉よりも雄弁です。でも、こりゃ人によってイロイロ解釈可能だな。そこがいいんや・・・とも言える。
博太郎さん演ずる真下辰己も皆川勤をうろうろさせてしまう一人。
何しろ真下辰己の村、円見町では、鏡は神として祀られている!むやみにはカーブミラーなど立てられない。村内のカーブミラーは真下辰己の息子が事故を起こしてから設置されたものと、あと2か所くらい。しかも、ポールも外枠もお稲荷さんの鳥居のような赤!!足元には三宝にのせたお供えが恭しく捧げられています。
長野県先行上映の予告編に入ってた真下辰己のセリフ
「この村では鏡は本来の目的を果たしていません。生活圏に置かれた鏡はほとんどないんです、祀るものですから!」
というのは、村のカーブミラー設置状況を皆川勤に訴えたものだったんですね。手振りで丸い鏡を示しながら語る様子は、ここだけ取り出すと『女ざかり』の民俗信仰について語る論説委員みたいですが、前後があるとだいぶ違って、まともなお父さん。
そんなわけで、皆川勤を真下一家はじめカーブミラー増設を求める住民たちでもてなして、カーブミラー設置を役所に働きかけてもらおう・・・と。
で、皆川勤は事故でも起こせばミラーが建つかと・・・結局、自転車をこいで逃げだしてしまいます。
皆川勤が家族を放り出して全国のカーブミラーを拭こうとしたワケはよくわかりません。ミラー拭きにかこつけて、家族とか何やかや言いつのる交通事故の被害者家族とかから逃げだしただけかもしれません。皆川勤に共鳴した上野恒男(津川雅彦)が仕掛け人になってミラーを拭くアラウンド60男の集団、反射鏡会なるものができても、皆川勤の動機はわかりません。ま、いいけど。
長野県で先行上映されてから、一年近くたってテアトル池袋で上映されたくらいで(北海道では上映したんだっけ?)。あとはNHKが思い出したようにBSハイビジョンか何かで何度か放送した作品ですが、
2009年3月6日 『ミラーを拭く男』DVD 発売予定 BWD-1891
ということになってから、BSやあちこちの地上波テレビ局が放送されています。緒形拳さんが亡くなったから?
脚本はサンダンス・NHK国際映像作家賞2002受賞。

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