正月中、暇つぶしに読んでた本−文庫本の伊集院静短編集『峠の声』。
この表題作『峠の声』の五三男の父親、これを本田博太郎さんで見たいと思いながら読んでました。
ハナシは、五三男が老母の供をして15年前に死んだ父親の墓へ行って帰ってくる途中までのこと。その道すがら、祖父の葬式や長兄のことなどのことをあれこれ回想する。そして回想は、しだいに父親のことに集約されていく。・・・ウン、そーだ。老母は、峠の黄櫨の大木のあたりで「何か聞かなかったか」と何度か尋ねるんだ。
五三男の父親は婿入りした男で、戦争に行って足を負傷し農作業ができなくなったので竹細工をするようになったが、祖父に遠慮して母屋に住まず小屋に住んでいる。
父は、五三男にいろんなムカシ話を聞かせ、月にいる美しい娘の話をする。また、父は、祖父や母は天皇様の子だから死んだらアッチの国へ行くけれど、父はアッチの国へは行けなくて月へ行くという。
五三男は母屋に住んでいるんだけれど、優しい父が好き。盗みをしたときも父には打ち明け、すると、困った顔をして聞いていて、「気がすんだか?なら、返してこい」
竹林へ竹を取りに行ったときの父親はいきいきしています。竹に紐をかけて身軽に飛ぶ父親とか、谷川に水路を作り岩魚を跳ね上げて獲る父親。
五三男は、父の葬列に母が加わらなかったことをふいに思い出す。
回想は、父親の死の前後の出来事にも及ぶ。月に人類が降り立ったニュースを伝えたこと。死の二日前、父親は母にすがり付いて赤ん坊のように何事か訴えていたこと。父親は、口の周りに吐瀉物をこびりつかせて死んでいたこと。
墓で老母は、大酒飲んで暴れてるんだけど、(結局、寝てしまうんだっけ?)とにかく、落ち着いて帰り始める。
五三男は、黄櫨の木の近くで、突然父親の声を聞く。死の二日前、父が母に訴えていたこと、「あっちの国へ、あっちの国へ行けるのか」。母親の答え「おお、おお、あっちの国へ行かせてやるとも」
こういう小説を読んでて、途中から、五三男の父親となると、本田博太郎さんがどうしても目に浮かんぢゃったよ。

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